そしたらゆりあは目を潤ませながら僕にグイッと顔を近づけて、ふふっと笑みをこぼした。
その笑顔は、海の地平線の向こう側からぼんやりと顔を出し始めた朝日のようにきれいで。
きっと僕はこの瞬間、またゆりあに恋をした。
「優太のばか」
「ちょ、ゆりあ。ここでそれ言う?僕そんなにばかじゃないよ」
ゆりあの照れ隠しだととっくに分かっているけど、あえて冗談げにそう言ってみると、ゆりあはくしゃりと楽しそうに笑う。
「……でも、優太。ありがとう」
「うん。僕こそ、ありがとう」
ふたりの間には、誰にも見えない透明な風が流れている。
夜が明け始めた空を、鳥たちが気持ち良さそうに泳いでいるのが目に映った。
「……確かにね、終わっちゃうよ。私たちのいる世界は、あと一日もしない間に消えてしまう。優太といられる時間も、どんどんなくなっていっちゃう」
「……そうだね」
「だけど優太。その残りの時間を、私は笑顔で過ごしたいの。優太の中に残る最後の私との思い出は、私の中に残る優太との最後の思い出は。悲しい思い出じゃなく、ふたりで笑顔で過ごした楽しい思い出がいいから」
そう言って、ゆりあはまた笑った。