……僕はゆりあをもう一度、右手でそっと抱き寄せた。


「僕も同じ気持ちだよ」


囁くようにそう告げて、目をそっと閉じる。


ゆりあに向かっての言葉なのか、不安でたまらない自分に向けての言葉なのかよく自分でも分かっていなかったけれど、僕は思ったことをそのまま口にする。


「ゆりあとこのままふたりで手をつないでいられたなら。どれほど幸せなんだろう」


ゆりあは、もう何も言わなかった。


ただ僕の言葉に耳を寄せるだけ。


「ゆりあはきっと私だけがってそう思っていると思う。けれどね、僕もゆりあと同じ事を思ってるんだよ。きみのことが僕は大好きだから」


顔の位置を少しだけ動かせば、髪の毛から僕の大好きだったきみのシャンプーの香りが漂ってくる。


いくら幽霊だといわれても、未だにそれが信じられない。


だってそのままだから。


いじっぱりなところも、わがままなところも、きみが照れたときに見せる仕草や笑顔も、香りも、全部全部そのままだから。


きみにこうして触れているときに伝わる温もりだって、きみが生きていたあの頃と変わらない。


……信じられないけれど、でも。


きみはもうこの世界には存在しない。


今きみがここにいるという不思議な現象が起きているのも、24時間という短い期間で僕に会いにきてくれたきみがいるから。