ねえ、ゆりあ。


きみは言ったよね?


僕と再会することを選んだ代償に、僕との思い出や僕の存在を忘れてしまうのだと。


忘れられなかった僕への思いと、今ここで生きていることの奇跡を僕に伝えるためにゆりあは僕に会いに来てくれた。


僕のことが好きだからこそ、きみを亡くして暗闇の奥底にいた僕を助けるためにきみはきてくれた。


さっきここで光に包まれて消えてしまったきみは、もう僕のことを忘れてしまったのだろうか。


……いや、きみが僕のことを忘れてもかまわない。


たとえきみが僕のことを忘れようとも、僕がきみのことを憶えているから。


きみと出会った日のことも、初めてデートした日のことも、この夏に起きた奇跡も。


空の色や風の匂い、透明な青に白い砂浜。


きみと見た景色の全てを、きみといたこの世界の美しさを、僕がちゃんと憶えてる。


ずっと永遠に色褪せてしまわないように心が憶えてる。


だからきみは、笑っていて。


僕の大好きな笑顔を、どこにいても咲かせていて。


これで、本当に最後だ───。もう振り返らない。


そう心のなかに決めて、僕はもう一度目を閉じる。


胸にそっと小さな紙切れを押し当てると、トクントクンと鼓動が伝わる。


僕は、生きている。


決して僕ひとりのものではない命を、生きている。


──優太、生きてね。


すぐそばで聞こえたきみの澄んだ透明な声に、僕はまぶたを伏せたまま微笑む。


僕の命のなかに、きみの命も吹き込まれたようなそんな気がして。


僕が生きるこれからの世界にきみはいないけれど、これが永遠の別れではないと信じているから。


これから何年、何十年、何百年たって。


そうしていつの日か、またきみと出会えるときがくるまで。


夏の奇跡が、再び形になる日まで。


振り返らず前だけを向いて、きみのくれた奇跡をなくしてしまわないように僕は今日を生きよう───。



【END】