だから、僕は生きなきゃいけない。


きみのいない世界がどんなに苦しくても、つらくても、僕は前を向いて、歩いていかなければいけない。


僕が生きることが、僕が幸せになることがきみの最後の願いなら、その願いを叶えないときみは幸せになれないでしょう?


「優太」


僕を見つめて優しく呼んだきみが、目尻を下げてふわりと笑う。


「大好きだよ」


波の音に包まれるなかできみが静かに目を閉じた。


さあさあと流れる風。夜空を彩る星の色。


どこか遠くで、この街伝統の0時を告げる鐘が鳴り響く。


その音にのせられるように僕もそっと目を閉じ、柔らかなきみの唇に自分の唇を重ねた。


きっとこれが、最後。


触れたのは一瞬で、離れた温もりが少し寂しい。


けれど寂しさを打ち消してしまうほどその温もりは温かかった。


「……18歳の誕生日、おめでとう」


きみの言葉と同時に星が瞬く。


暗闇を照らすように、月の明かりが夜空を彩る。


砂浜が、海辺が、世界が、僕の瞳にきれいに映る。


その美しい世界のなかで、僕の大好きな人が笑う。


頬に滴は流れているけれど、愛おしい笑顔を浮かべて泣きながら笑う。


その光景を見ているだけで込み上げるものがあり、僕の頬にも無数の涙が伝う。


気付けば、ふたりとも泣いていた。


そうしているうちに、きみの周りに白い光がゆらゆらとさ迷い始める。


そしてそれはやがてゆりあを大きく包み込み、きみの体を透明に透かしていく。


「さようなら、優太」


───そう言って、きみは僕に最後の笑みを残して消えた。


その微笑みは、僕が今まで見てきたどんなきみよりもきれいで、切ないけれど胸がほっとするようなそんな笑みだった。


僕はそっと目を閉じる。