泣きそうな僕を見たゆりあは、時計にちらりと視線をやると、そっと僕の手を取り立ち上がった。


星や月が照らす海辺で手を握ったまま、向かい合わせになる僕たち。


「……まだ、15分もあるね」


ゆりあが少しだけ寂しそうに笑った。


出会ったときは24時間もあったきみとの時間が、残り15分となった。


それでも、まだ15分もある。


泣くにはまだ早い。別れを惜しむにはまだ早い。


僕は溢れそうになる涙を必死にこらえた。


「だから優太、優太は生きなきゃ」

「……僕は、生きる」

「そう、生きるの。たくさんの人が守ってくれた命を、絶対自分で終わらしちゃだめだよ。優太の命には、たくさんの犠牲とたくさんの思いが詰まってるんだから。優太は、ひとりで生きているんじゃないんだから」


ゆりあは僕の手を離さず、その手に力を込めた。


それは優しくて、あたたかい温もり。


「私の、お願い事」


満天の星空の下の砂浜で、きみが黒髪をなびかせながら呟く。


「まだ言ってなかったよね?線香花火のお願い事」

「……そうだね」

「じゃあ、今から言うね」

「……うん」

「今までたくさんわがままを言ってきたね。たくさん困らせてきたね。素直じゃないから、優太を怒らせたこともあったんじゃないのかな。優太は優しいから何も言わず微笑んでくれていたけど」


澄んだ瞳を潤わせながらあどけなく笑うゆりあを見ていると、私はもうすぐいなくなるんだときみが身をもって感じていることが伝わってきてしまう。


言動から、その笑顔から、僕には分かってしまうよ、ゆりあ。


きみが今とても、寂しい気持ちを抱えていること。


……僕も寂しいんだ、きみがもうすぐいなくなってしまうことが。