想像していたよりもずっと残忍で残酷で、同じ地を踏みしめて同じ世界を生きているとは思えないほど苦しかった。
「私のひいおばあちゃんは、殺されかけたの。兵士の人に。私は見た、その光景を」
ゆりあの頬に、涙が伝う。何粒も何粒も。
「赤ん坊が生まれると迷惑だ、今ここで死んでくれることが御国のためになる。ひいおばあちゃん、そう言われてた。でもね、ひいおばあちゃんは涙すら流さず、悲しい顔すらもせずに。唇を噛み締めて、笑ってたんだよ。分かりました、そう一言、全てを受け入れたように言ってた」
「……そんなこと、」
あっていいわけないじゃないか。
そう思っていても、今と昔の考え方は違う。
時が時間を刻むように、歴史も変わり新たなものを刻む。
きみはその光景を、どんな気持ちで見ていたのだろうか。
やるせない思いを胸に、今のように泣いていたのだろうか。
「あっていいわけないのにね。昔も今も命の価値は変わらない、たったひとつしかない大切な宝物なんだから。でもね、昔の人はそれをきっと知らなかったの。周りや自分を傷つけることでしか、大切なものの守りかたを知らなかったんだよ。……でもね、気付いてる人もいた」
「気付いてる、人?」
「そう。命は宝物。奇跡。そのことに気付いてる人もいたんだよ。……私のひいおじいちゃん」
そっと微笑むゆりあは、人差し指で涙を拭う。
それでも止まらない涙は、再びゆりあの頬を伝っていく。
「ひいおじいちゃんは、ひいおばあちゃんとそのお腹に宿る我が子をどうにかして守ろうと頭を下げ続けた。兵士にとって頭を下げることは、何があろうと決して許されないこと。でもね、ひいおじいちゃんは頭を下げていた。額や顔を土だらけにしながら、何度も何度も」
──大切な、大切な宝物なんです。僕の命よりも大切な宝物なんです。
「そう言って、ひいおばあちゃんと我が子を守ろうとしていた。ひいおじいちゃんは気付いてたんだよ。この世界に生まれて生きていることがね、何よりも素晴らしい奇跡なんだって」
顔を上げたきみの頬に、涙の粒が何筋も流れ落ちる。