きみが見た走馬灯は、きみが生まれる何年も何十年も前のものだった。


「私が生まれるまで、私の命がこの世に生まれるまで。世界にはいろんなことがあった。いろんなことが起きていた。私の命がこの世界に生まれてこれたことは、偶然なんかじゃない」


ゆりあは僕から目をそらしそっと僕の隣に腰かけると、やわらかい砂を右手に握り、その砂をさらさらと指の間から落とす。


僕はその様子をただ黙って眺めていた。


「この砂浜だってね、昔は戦場だったの。……そう、私が見た走馬灯は、私の曾祖母と曾祖父のもの」


僅かに睫毛を震わせながらそのときのことを思い出して話すゆりあを見ていると、ぐっと息が胸に詰まる。


きみの横顔が今にも消えてしまいそうなほど儚げで、きみの感じている不安や恐怖、きみを苦しめているもの全てから守ってあげられるようにこの両手で抱きしめたくなった。


「……きみは見たの?戦争というものを」


汗で滲む手。眼孔の開いた瞳。


唾を飲み込んだ喉がごくりと蠕動する。


心臓が今だかつてないほどの速度で鼓動を刻む。


「戦争を目にしたのは一瞬。私が見たのは、確かに戦時中の記憶だったけれど、正しくは戦時中に生まれた曾祖母の記憶。祖母──おばあちゃんを、曾祖母──ひいおばあちゃんが生むまでの記憶」


ゆりあはまぶたを伏せ、眉をぐっと中央に寄せ、そのときの様子を思い出すように小さく何度か深呼吸をした。


「あのとき、ひいおばあちゃんがおばあちゃんを生んだとき。この世界は戦争中だった。爆弾が飛び交い、洞窟では手榴弾による自害が起こり、赤ちゃんの泣き声ですら命取りだからと小さな命が正当な理由もなく殺される、そんな世界だった」


僕は思い出す。


学校で学んだ戦争を、教科書に書いてあるだけの戦争を。


けれどきみの話す戦争は、教科書に書いてあることとは全く違っていた。