線香花火で勝負をするだなんていうのはよく聞く。


確かによく聞くのだけれど、どうしてここで急にそんなことをしようと思い立ったのか。


ゆりあがふふっと笑いながら言う。


「優太、なんでって顔してるね」

「……うん」


曖昧に頷いた僕。だって本当にその通りだったから。


線香花火をはい、と僕に渡してくるからそれを素直に受け取った僕はもう一度ゆりあに目を向ける。


ゆりあは自分の花火も手に準備していた。


「……なんで、と言われれば、なんとなくかなあ。なんとなくね、優太と線香花火するなら勝負したいなあって。……っていうのは嘘でね」


夏の夜風が砂浜を吹き荒れる。


それと同時におどけたきみの笑顔が明かりに照らされる。


……嘘、なのか。


こういうときでもわがままを発揮するゆりあに、僕は返す言葉も見つからない。


「……本当、ゆりあは可愛いなあ」


そう自分にしか分からないほど小さな声で呟いたけれど、どうやらそれは筒抜けだったみたいで、そんなことはどうでもいいから私の話を聞いて、と怒られた。


僕は大人しくゆりあに目を向ける。


きみの横顔を美しく照らすのは月明かりなのか星明かりなのか、正解はそのどちらもだろう。


ゆりあがそっと、微笑んだ。


「……勝ったほうの願いを、負けたほうがきく。ふたりで何か賭けがしたいなあってね」

「……賭け?」

「そう。今まで私たち、そんなことしたことなかったでしょ?ほら、よくドラマでもやってるから。線香花火で勝負して、勝ったほうのお願い事を叶えるやつ。……優太としたいなあって」


笑ったゆりあの瞳に、僅かに星の色が映る。