月明かりが海に色を映す。
暗い黒い、世界をのみこんでしまいそうなほど広い海が、少しだけ明るさを帯びる。
「よし、花火しよう。優太、早く火つけようよ」
隣にいたゆりあがこの重い雰囲気を変えるように、右手に花火を用意して声を張る。
暗闇に似合わない明るい声。
僕はチャッカマンを取りだし、カチャ──と音をたてて火をつけた。
ぼうっと先からでる炎。
一気に辺り一面が明るく照らされる。
僕も用意していた花火を左手に持つと、ゆりあのせいの、と声を合わせふたり同時に花火の先を炎にあてた。
──バチバチ、と弾けるような音。
そして花火が吹き出すような鈍い音がしたかと思えば、花火の先から火が飛び散る。
「あ、ついた。見て見て、優太!すごくきれいだよ」
「本当だね。僕の花火にも火がついた。僕の花火は黄色っぽい」
「私の花火はね、赤っぽくない?少しだけピンク色も入ってるような気がする」
弾けるようなきみの笑顔。
例えるなら、今僕たちの手のなかにある花火のように明るく儚い、そんな笑顔。
この笑顔を、今日あとどのくらい見ることができるだろう。
「……優太、次はこれやりたい」
きみの笑顔を見ているとね、ドキドキするんだ。
けれどね、それと同じくらい胸がとても痛いんだ。