「美輝、賢……なんで、ここに?」
「どう、したの?」
「え、あ……なんか……よくわかんないけど移動させられたらしくて……」

 隣にいるおじさんとおばさんの表情も暗く、突然やってきたわたしと賢に軽く会釈するだけだった。

 なにも言わずに賢が雅人の前に行き、肩に手を置いた。ここにいるのは迷惑かと思ったのか、賢が近くの待合室ではなく少し離れた場所に雅人を連れて行く。

 面会時間の終わった薄暗い待合室に、わたしと賢と雅人の三人が机を囲んだ。

「いや、ほんと……びびった」

 力ない笑みを見せながら、雅人がポツリと呟く。

「おばさんから連絡入ってさ……」

 なにがあったのかは、雅人もよくわかっていないのかもしれない。

 だけど、おばさんとおじさんの表情は、かなり不安げだった。それに、雅人を呼び出したってことは結構危ない、のかもしれない。

 さっき、雅人は明るい口調で町田さんが目覚めたのだと、そう話していたはずなのに。

「雅人……」
「いや、大丈夫、大丈夫……」

 わたしの言葉を遮るように、雅人が何度も『大丈夫』を繰り返す。まるで、そう自分に言い聞かせているみたいに。

「……ほんと、わかんないよな」

 声が震えていて、今にも泣き出しそうだった。見ているだけで、聞いているだけで、わたしまで胸が苦しくて泣きたくなるくらい、悲痛な声だった。

 そんな顔しないで。笑っていてほしい。雅人には笑っていて欲しい。だけど、泣きたいのなら泣いていい。わたしはずっとそばにいるから。

「この前まで、一緒にいたのに……急に、こんなの、理解できねえよな」

 机の上に置かれた雅人の手が、ぐっと拳を作って小刻みに震える。

「まさ——……」

 沈んだ姿の雅人に、手を伸ばした。その手の震えを、少しでも止めることができたら、って思った。けれど……その手は、雅人によって、遮られた。

 わたしを拒絶するような手のひら。

「大丈夫だから」

 顔を上げて、今にも泣き出しそうな笑顔を見せる。

 泣きたいくせに、弱音を吐きたいくせに。なんでそんなふうに強がるの。