タクシーがやってきたら乗り込むつもりだったけれど、先にバスがやってきたのでそれに乗った。
夜遅いバスの車内はほとんど人が乗っていなくて、さみしげだ。
雅人は、先のバスに乗ったのだろうか。やっぱり、病院に向かったんだろうか。他にこんな時間から、あんなに慌てた様子で出かける場所があるはずがない。
バスの中でも気がつけば賢と手をつないだままだった。この手を離してしまうと、奈落に突き落とされそうな気がして、ぎゅっと握りしめたままバスに揺られる。
なにもなければいい。
できれば雅人が向かったのが病院ではなく、賢の電話に気づかなかっただけなんだと笑って連絡が入ればいい。もし、病院だとすれば――ちょっと大げさになっただけで、何事もなければいい。
そう思うのは、町田さんを心配しているからなのか、雅人を心配してなのかはまだよくわからない。
だけど、今までよりずっと強く、町田さんの無事を祈った。
賢はバスを降りたり電車を待つ間も雅人に連絡を入れていたけれど、一度もつながらなかった。
病院は、とても薄暗く、異様な空気が立ち込めてた。
正面玄関はしまっていたので、そばにいたガードマンの人に声をかけて入り口を教えてもらう。正面玄関よりも小さな受付で、ひとりの看護師さんに声をかけると戸惑った表情をしてから場所を教えてくれた。
一度目とも、二度目とも違う場所に、わたしと賢が向かった。
病院の中は明るいのに薄暗い。人の気配が少ないからか、異次元なんじゃないかと思うほど異様な空気が取り巻いている。
エレベーターに乗り、目的地で降りる。
「……賢」
「ん」
思わず呼びかける。
それに対して賢はなんとも言えないような返事をした。
角を曲がって見えてくる待合室。そこには、雅人とおばさんとおじさんがソファに座っているのが見えた。
「……雅人?」
ゆっくりと近づいて、恐る恐る呼びかけた声は小さかった。けれど、雅人はそれに気付いてゆっくりとわたしの方を向く。
表情は、暗い。青白い顔に、真っ赤な瞳。今にも泣き出しそうな表情だった。