時間は九時を回っていて、さすがに賢は「帰るか」と立ち上がり背を伸ばした。

 空にはいくつかの星が輝いている。夜が深まるごとに光を増していく星たち。

「ねえ、死んだら星になるんだって」
「は? 馬鹿じゃねえの? なるわけないだろ」

 まあ、そうなんだろうけど。そんなに馬鹿にしたように呆れなくてもいいじゃない、と思ってしまう。わたしだって信じているわけじゃない。

「星になったって、今見える星は何万年か前の光だったりするんだろ? 意味ねえじゃん」
「ふ、ふはは。ホントだね」
「意地でも生きてそばにいるほうがいいし。もし本当に星になるなら、オレなりたくねえなあ」
「……そう思ったら、お父さんも、死んで悲しんでいるかもね」

 空を見上げて、星を眺める。真上にある星は、ただの光だ。触れることは、お互いにできない。

「星って、嫌いだった」

 お父さんは星になったわけじゃない。死んだ。きれいななにかになったわけじゃない。

 なのに、星を見ると必ず思い出してしまう。だから、星は嫌いだった。

「知ってるよ、そんなこと。お前無理して笑ってたもんな」
「ほんと、勘がいいなあ」

 でも、今日はいつもよりも素直な気持ちであの光を受け止めることが出来る。お父さんとの楽しかった思い出が蘇る。過去の光は、過去になって、思い出になって、空から降っているのかもしれない。なんて、ロマンチックなことを考えて、ひとり恥ずかしくなった。

 こんなことを思うようになるなんて、自分でも信じられない。

 それが、泣いたからだということは、間違いないだろう。

「じゃあ、気をつけて」
「賢のほうが気をつけてよ」

 マンションの入口が見える場所まで一緒に歩いてから、手を振って別れようとした。そのとき、賢がなにかに気付いた様子で眉根を寄せる。

 振り返り視線を賢と同じ方に向けると、雅人がマンションから出てきて走って行く姿が見えた。