「変わらないものなんかねえよ。雅人も、美輝も、オレも。生きてるんだから」

 奥歯を噛んで、「でも」と震える声を発すると、賢が頭をぐしゃぐしゃに撫で回した。

「なにするの……」
「変わらないなんておもしろくないだろ。変わっていく中で、変わってないものの方が、嬉しいだろ。それとも美輝は、雅人がお前を特別に思ってないのがわかんねえの?」
「わかってるよ、そん、なの……!」

 大事にされていることはわかっている。

 ちゃんとわかっている。特別な存在だって、知っている。それが、どれだけすごいことで嬉しいことなのか本当はちゃんとわかってる。

 それでも、わたしだけを見て欲しかった。わたし以外の誰かを大事にしてほしくなかった。

 恋愛感情じゃない。だけど、幼馴染でもない。失われた家族の代わりに、わたしは雅人に執着しただけだ。雅人の変化に文句を言いながら、自分が一番雅人への思いを歪ませていたんだ。

 別の変化も心のどこかで感じながらも蓋をし続けて、同じあろうとし続けた。

 そんなこと出来るはずもないのに。

 賢から受け取ったタオルをぎゅうっと握りしめて、顔を隠す。

「でも、大事だったんだよ……」

 それでも、雅人を大事に思う、特別に思う気持ちは、本物だ。じゃないとこんなに苦しいはずがない。こんなに町田さんに嫉妬したりしない。

 大好きだ。本当に、雅人のことが大好きなんだ。

「雅人は、美輝が何をしたって、どんなことを言ったって、嫌いになることはないし、美輝になにかあれば飛んで行くって、わかってるんだろ? “ずっと”そばにいてくれるだろ?」

 そうだよ。
 雅人は、そばにいてくれている。

 変わってしまった関係で、変わってしまった感情。それでも、あの約束は変わらない。環境や行動が変わってしまったとしても、雅人のその気持は変わらない。

 わかってる。

 だって、そんな雅人を誰よりも知っているのはわたしなんだもの。

 涙だけがこぼれていた。だけど、雅人の変わらない優しさを思い出すと息が苦しくなってきて、歯を食いしばることもできなくなり――わたしは子供のように声を上げて泣いた。