たしかに雅人らしい。人のことを真っ直ぐに見てくれて、優しくて温かい。そんな雅人がちょっと憎らしく思えるくらいに、雅人らしい。

「でもまあ、不安な気持ちはあるだろ。それでも信じようとしてるんじゃねえの」
「すごいよ。わたしには無理」
「……お前がいるからだろうな」

 きょとんとしながら顔をあげると、賢が苦笑した。そしてスポーツバッグから一枚のタオルを取り出して「使ってねえから」とわたしの顔を乱暴に擦り付ける。涙で顔がぐちゃぐちゃになっていたのだろう。

「美輝が、泣かずにいたから、美輝にかっこわるいところは見せたくないんだろ」

 わたしは、雅人がいてくれたから、ただ、泣かなかっただけ。本当は泣き崩れそうになるほど弱かったわたしを、支えてくれたのは雅人だ。

 ふとしたときにお父さんのことを思い出して泣きたくなったことは何度もある。だけど雅人の笑顔があれば、それでよかった。

 雅人に、泣いている姿を見られたくなかった。雅人にはいつも、笑顔でいて欲しかった。

 あの日、お父さんが亡くなった日の雅人の笑顔は、本当に暖かかったから。

 でも、でも。

 そばにいてくれた雅人がいなくなると、自分はこんなにも弱くてズルくて醜い。

「お前が、今まで雅人にしていたことを、雅人はそれなりに感じてて、だから、頑張ってるんだろ。そのくらい、お前は雅人にとって、特別なんだと、俺は思ってる」

 賢が真面目な顔をして、わたしを真っ直ぐに見つめる。

 目の前でなにかがはじけたような衝撃を受けて、視界が涙でゆがむ。

 嬉しい気持ちと、複雑な気持ちが入り混じって、よくわからない。溢れる涙の理由が、自分にもわからなかった。

「雅人は、お前のそばに今もいるよ。彼女が町田でも、お前のそばから離れたわけじゃない」
「そんなの……わたしは、ずっと変わらずに、そばにいたかった……」
「変わらない関係なんて、ねえだろ」

 だからこそ、変わらない関係を、わたしは欲していた。