「お父さんだって……」
「お前の父親は、お前にひどいことしたか?」
「……してない」
「優しかったんだろ」
「誰よりも、優しかった」

 お母さんに怒られていると、かばってくれるのはいつもお父さんだった。いつも手をつないで歩いていたし、嫌がるわたしをいつも抱きしめて『美輝はお父さんのそばにいてくれるよなあ』とか『ずっと美輝のそばにいるからな』と言っていた。

 亡くなる前はあまり家に帰ってこなかったけれど、それでも……誕生日にはいつもわたしのほしいものをプレゼントしてくれたし、たまに帰りの早い日はケーキを買って帰ってきてくれた。わたしの大好きなケーキばかりを買ってきて『全部美輝のだ』というのがいつものことだった。

 お母さんの誕生日だって、いつもプレゼントをあげていたことを知っている。仲が良くて、お母さんに怒られたら落ち込んでわたしのそばにやってきたこともある。

 お父さんはわたしも、お母さんも、大事にしてくれた。お父さんからはいつだって愛情を感じていた。優しかった。大好きだった。

「だからこそ、許せない」

 裏切ったこと、先にいなくなってしまったことも。

「文句を言えないのは……辛いよなあ」

 そう言って賢の頭を優しく撫でてくれた。そんなことされたら、また泣いてしまうのに。

「そばにいるって、言ったのに……。お父さんも、雅人も、ずっと、一緒にいるって、言ったのに」

 どうして、そばにいないの。
 どうして他に大事な人を作って離れてしまうの。

 思い切り責めることができれば、お父さんの口から言い訳が聞ければ、こんなに苦しまなくて済んだ。お母さんがあんなふうに泣くことだってなかった。

 生きてて欲しかった。なんでもいいから、生きていて欲しかった。大嫌いだけど、大嫌いな気持ちを伝えることもできないなんて、悔しすぎる。

 自分がそんなふうに思っていたことに、今初めて気がついた。

「なんで、雅人は……あんなに信じられるの」
「雅人だからだろ」

 間髪入れないで賢が答えてくれて、思わず笑みが零れた。