雅人の気持ちが嘘だとは思っていない。けれど、昔のその約束はない。言葉だけ。雅人がそばにいたい人は町田さんだ。

「美輝、ちょっと話すか?」

 隣の賢が返事を待たずにわたしの手を掴んで歩き出した。

「け、賢? どうしたの?」
「時間潰すの付き合え」
「え? え?」

 時間潰すって、家でごはんが待っているじゃないの。

 意味がわからずに、引かれるまま賢について行くと、公園のベンチで足を止める。そこに腰を下ろして、突っ立っているわたしにも座るように、顎で促した。

「ずっと、泣きそうな顔してる」

 びくり、と体が震える。

「……なんでかよくわかんねえけど、とりあえず泣いとけば?」
「なにそれ」

 適当だなあ。

 呆れながら口にしたはずなのに、言葉と一緒に涙がぼろりと瞳からこぼれ落ちた。

「泣きたくないのはわかるけど、泣いたほうが楽になる場合もあるだろ。特に美輝は人前で泣くことしないと、いつまでも強がるだろ」

 なんでもお見通しだ。ちょっと悔しいくらいに。

 だけど、涙腺が馬鹿になってしまったみたいに涙がぼとぼとと溢れて止められない。

「前と、逆だね」

 この場所で、以前も賢とふたりで過ごした夜のことを思い出して呟くと、賢は「恥ずかしいこと思い出すな」とそっぽを向いてしまった。

「もう、足大丈夫なんだね」
「当たり前だろ」

 右足首を自慢気に動かしてわたしに見せつける。
 去年は、その足首にはテーピングがぐるぐると巻かれていた。



 中学三年生のとき。賢は階段から落ちて足を捻挫した。サッカー部の試合直前のことだ。落ちた理由はたまたま、階段を駆け上がっていた後輩とぶつかったこと。

「まあ、一回戦か二回戦勝てたらいいくらいだから別にいいんだけどなあ」

 ひょこひょことしか歩けなくなった賢は、なんでもないことのようにそう言って笑っていた。数週間で完治するから、サッカーができなくなるわけじゃない。そもそもサッカーは部活だけだし、と何度も口にして、頭を下げる後輩たちを一言も責めなかった。落ち込んでいるのは賢よりも、雅人の方だった。

 わたしも、あまり気にしていなかった。

 だって賢はいつも通りだったから。

 だけど、そうじゃなかった。