「きみちゃんが事故にあったって連絡きてから、ずっとパニックになっててたんだ。手術待ってる間も、震えてじっとすることしかできなくて、悪いことばっかり考えちゃって泣いたりしちゃってさ。そしたら、美輝のこと思い出した」
「わたしの、こと?」
「美輝は、美輝のお父さんが亡くなったときも、泣かなかったなあって」

 そんなことない。

 あの日、わたしは泣いた。人前で泣かなかっただけで、布団に潜り込んで、悲しさと悔しさで止まらない涙を隠していただけだ。声を殺して、一晩中泣き続けた。

 泣きたい気持ちを、必死に我慢して立っていただけだ。

 あの日、雅人が屋上に来たときだって、ひとりだったらわたしは泣いていただろう。

「美輝は……いつも前向きで、俺に笑いかけるんだよな。愚痴も弱音もほとんど言わなくて。俺も、美輝みたいにしなくちゃなって、思った」

 雅人の話している“美輝”はまるでわたしじゃない別の人のことのように聞こえてくる。

 だって本当のわたしは、前向きじゃない。どちらかと言うと後ろ向きで、なおかつちょっと斜めに後ろ向きだ。人を羨んで妬んでイライラしたり落ち込んだりするだけの、弱い人間だ。

 笑っていたのは、雅人がいたから。それだけだ。

 心のなかで、どれだけ醜い感情を抱いていたか、雅人は知らない。

「俺は、美輝に、なにもできなったよね」
「そんなこと、ない」

 たくさんくれた。優しい気持ちと愛しい気持ちを、わたしにくれた。そして、約束も。

「そばに、いてくれたし、雅人がわたしに言ってくれたから」
「ああ、星になってるよってやつ?」

 いや、それじゃないよ、と言おうとすると雅人が「今も、どっかで美輝のお父さんは美輝を見てんのかな」と呟く。

「小さいころさー、美輝はいっつもおじさんと一緒にいたよなあ」
「あー、うん。小学校くらいまでは一緒だったかな」

 ふふっと思いだして雅人が笑った。

「あの頃、おじさんいつも『美輝とずっと一緒にいるぞ』って抱きしめてて、見てて俺もすげえ幸せになるくらい仲良かったよな」
「……うん」

 あの頃は、本当に思ってた。お父さんはずっとわたしのそばにいてくれるんだって。