「実はさ」

 わたしも賢も言葉を失ったことに気付いたのか、雅人はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

「障害が、残るかもしれないんだって」

 それは、とてもとても小さな声。それを聞いたわたしと賢の顔が、同時に強張ったのがわかった。

「……え?」
「頭、強く打ってて。記憶とかは問題ないんだけど、麻痺とか、そういうのがあるかもって。記憶になにか問題があるかっていうのは、まだ、わかんないんだけど。手術終わったすぐあとに、おばさんが医者から言われてたんだらしくて。今日、教えてもらった」

 障害、が残る? 麻痺って、元には戻らないってこと?

 どの程度、どの範囲、それが町田さんに影響しているのだろうか。

「でも、だからって……俺には関係ないんだけどな」

 雅人は、無理をしているのが一目でわかるほどの歪な笑顔を見せた。そばにあったクッションを手にして雅人が抱き締める。力いっぱいに潰されたクッションは、ぐにゃりと歪んだ。

「きみちゃんが、生きてるならそれでいいんだ」

 なぜだかすごく、泣きたくなった。

 雅人の言葉に、嘘偽りは感じられない。心の底から、そう思っている。だからこそ、その決意の強さに胸が締め付けられる。雅人は、町田さんにどんな後遺症が残っても、そばにいるだろう。それこそ、ずっと。

 ずっとそばに、いるんだろう。
 わたしではなく、大好きな町田さんのそばに。
 当たり前のことだ。そういう雅人だから、わたしは雅人のことが大好きだった。

 なのに、苦しい。

 賢もなにも言えずにいると、大きな音で音楽が鳴り始めた。「あ、オレだ」と賢が慌てて腰を上げて部屋を出て行く。

「賢の着信音、でかすぎない?」
「ふはは」

 雅人がケラケラと笑ったので、わたしも釣られて笑ってしまった。でも、賢の電話のお陰で、さっきまでの重苦しい空気が払拭される。

 はあ、っと雅人が肩の力を抜いて息を吐き出した。そして、わたしの目を見る。

「美輝は、強いなあ」
「え?」
「今回のことで、俺、ホント、美輝の強さを実感した」

 なにを言っているのかわからず、首をかしげる。どうして、わたしが強いなんて話になるのかわからない。それに、今回わたしはなんの役にも立てなかった。