ごはんを終えて、お風呂に入ってしばらくしてから布団に入った。
カーテンで見えない窓の外は、暗闇が世界を包み込んでいる。それは、時々ひどく自分が孤独のように感じさせる。
今、町田さんはどこでなにをしているのだろう。
誰にも見えない彼女にとって、この夜はそんなふうに感じられるのだろう。
もう、彼女のことなんて考えたくないのに、どうしても思い出してしまう。さみしげな背中の向こうで、彼女はどんな表情をしていたのだろう。
ぼんやりと考えていたはずなのに、いつの間にか眠っていたらしい。
ふと瞼が開いて、喉の渇きを感じた。熱帯夜で体がひどくだるい。まだ眠いと思っているのに、一度目覚めてしまうとなかなか寝付けなくなってベッドの上で何度も寝返りを打った。
携帯で時間を確認すると、三時前。
喉が乾いたし、ちょっとお手洗いにも行きたくなってくる。数分どうしようかと考えていたけれど、このままじゃ余計に眠れないと思い体を起こした。寝ているであろうお母さんを起こすことのないようにそっとドアを開ける。
廊下の先には、じんわりと明かりが灯っていた。
和室の閉められたふすまから、光が漏れている。
「……な、んで」
お母さんの震える声と、鼻を啜る音が聴こえる。
気配を消しながらふすまに近づき、数センチほどあいていた隙間から中を覗き込む。仏壇の前にお母さんが座って俯いているのが見えた。
「夢でもいいから出てきてくれたら……責められるのに」
それは、初めて聞く悲痛の声だった。
胸がぎゅうっと締め付けられて、喉がじりじりと痛む。吐き出す息に熱が篭って、次に涙がつうっと頬を伝った。
お母さんは、わたしよりもずっと苦しい思いを抱いている。
許せない気持ちは、お母さんも一緒。やり場のない苛立ちと悲しみと悔しさ。それを消化する方法じは、どこにもない。
今日、お母さんを泣かせてしまったのは、わたしだ。わたしが、あんな話をしたからだ。
だけど、お母さんのそばに駆け寄って、謝ることも、抱きしめることも一緒に泣くことも出来ない。
お母さんは、わたしがいたら泣けないのを、知っている。わたしがいると、気丈に振る舞うのを、知っている。
お母さんの背中を見ているとわたしまで苦しくなって、口を塞ぐと代わりに瞳から涙があふれて止まらなくなった。こぼれ落ちる涙を手で受け止め、声を出さないようにわたしも泣いた。
お父さんが生きていてくれたら、お母さんはこんなふうに泣かなかった。わたしが弱くなければ、お母さんはこんなふうに夜中でひとりで隠れて泣かなかった。どちらの場合も、お母さんを苦しめることはなかった。
どうして、みんなで青空の下で、笑える日々を過ごすことができなかったのか。
「あなたの口から聞いていたら……信じれたかもしれないのに」
苦笑を込めたような口調に、涙を感じるお母さんの声は、とても優しいものだった。
わたしはやっぱりお父さんのことを許せない。
許せないからこそ、今、強く思う。
生きていてくれたらよかったのに、って。