「おーはよー、美輝!」

 背後から明るい声が聞こえてきて振り返ると、中学からの友人の真知《まち》が、太陽みたいな明るい笑顔でわたしたちに手を振りながら駆け寄ってきていた。

「おはよー真知」
「あ、賢くんもおはよ」
「はよ」

 わたしの隣に並んで、ついでのように賢にも声をかけた。

 黒色ショートの髪の毛は、真知にとてもよく似合っている。テニス部で程よく焼けた健康的な肌も、真知のその性格の明るさを引き立てているような気がする。明日から夏休みだからか、笑顔はいつもよりも豪快に見えた。きっとテニス三昧の日々を送るのだろう。

「今日も仲いいねふたりは。で、前のふたりも」

 いつものようにわたしと賢の仲を軽くからかってから、少し前を歩く雅人たちに視線を送り呟いた。

「思ったより長く付き合ってるよね、ホント。夏休み前には別れると思ってた」

 その言葉に、わたしも賢もなにも言わなかった。
 みんな、同じようなことを思っていたからだろう。


 ふたりが付き合い始めたのは、高校に入学して一ヶ月程経った頃。

 町田さんは高校入学してすぐに注目の的になるほどの美少女だ。わたしも雅人も賢も、彼女と同じクラスではないけれど、存在は知っていた。すごくかわいい子がいたね、と話していたのを憶えている。

 肩甲骨まであるダークブラウンのストレートヘア。すらりと伸びた手足に、小さな顔。そして長いまつげに大きな瞳。一〇人に聞いたら間違いなく一〇人ともかわいいと言うだろう。

 だからこそ、なのだろうか。彼女の噂は接点のないわたしの耳にもよく入ってきた。

『中学時代、本当にとっかえひっかえだった』
『告白して、ちょっと付き合ったらすぐに別れてた』
『顔がいい人には手当たり次第だった』

 噂なので、どこからどこまでが本当化はわからない。ただ、たくさんの人と付き合っていたことは間違いないのだと、中学から一緒だったというクラスメイトが言っていた。『付き合ってみたらちょっと違った』と言って一週間であっさり別れたらしい。交際期間は長くて一ヶ月、短くて一週間だとか。正直わたしとは別世界の人だ。

 そんな彼女が、まさか雅人と付き合うことになるなんて、予想だにしなかった。