「雅人のことをわかってるのも、大事に思ってるのも、私」

 悔しくて悔しくて、震える声で言い返した。涙を瞳に溜めながら、力いっぱい睨めつける。町田さんはそれを見て、冷めた表情をわたしに向けるだけ。

「ただいまー」

 どのくらい、無言で向かい合っていただろうか。玄関からお母さんの声が聞こえて、凍った空気がひび割れたように体から力が抜けた。

「私がこんな状態なのに、美輝ちゃんに笑いかける雅人くんを見る私の気持ちなんてどうでもいいんでしょ、ふたりとも」

 町田さんは背を向けて呟く。

「安心すれば? どうせ、もし目が覚めたって別れるし」

 振り返り、ふ、とかすかな笑みをわたしに向けてから町田さんが玄関に向かって歩いて行く。
 今、別れる……って言った? 別れるって、急になんで? さっきまで散々わたしに文句行っていたくせに。

 とりあえず町田さんを追いかけると、彼女はそのままお母さんが開けたままにしているドアから外に出て行くのが見えた。バタンとドアが閉まって、町田さんの姿が見えなくなる。

「美輝? どうしたの?」
「え? あ、ううん……おかえり、なさい。あ、ごめん、ごはん、まだ途中で。今日、早かったね」
「一区切り付いたからたまにはね。ごはんはお母さんが作るからちょっと待ってて。たまにはお母さんが振る舞うわよ」

 お母さんの優しい微笑みに、沈んだ気持ちが少し楽になった。

 町田さんはきっと病院に帰ったんだろう。そこ以外に行くところなんてないだろうし、わたしの家にいるよりも、そのほうがいい。

 できれば、もう、二度と町田さんと話なんてしたくない。

 わたしたちは多分、どうしたって相容れない。話せば話すほど、ケンカをしてしまうのだろう。仲良くするなんて絶対無理だ。

 ケンカの最中の台詞はまだいい。お互い様だし、言われてもっともなこともあった。お父さんのことや雅人との関係に好き勝手言われたのはもちろんムカついたけれど。でも、それ以上に最後に言ったことが信じられない。

 なんて勝手なことを言うのだろう。

 あれだけ心配している雅人を見て、そんなことを言えるなんて信じられない。