「ほんと、美輝ちゃんってムカつく」

 低い声だった。

 突然町田さんはすっくと立ち上がり、むすっとした顔をわたしに向ける。

 今度は一体なんなのか。さっきまで黙って座っていたのに、どうして急にムカつかれなければならないのか。言い返すにも、意味がわからなさすぎて戸惑うだけ。

「美輝ちゃんばっかり、ずるいよね。ほんと」
「なに、なんで?」

 つかつかと近づいてくる彼女の気迫にたじろぎながら言い返す。けれどそんなことで町田さんは足を止めるわけもなく、わたしの隣に立って歪んだ顔で覗き込んできた。その顔は、怒っているのに泣いているみたいに見える。

「友達もいて、大事にしてくれる幼馴染もいて。それを独り占めしようとして。性格悪いよね、美輝ちゃん」
「っな……!」
「今だってどうせ私が事故にあってラッキーとか思ってるんでしょ? ホントはさっさと死ねばいいのにとか思ってるんでしょ? 前からずっと私のこと嫌いだったもんね。消えて欲しいとか思ってたんでしょ?」
「そんなこと思ってるわけないでしょ」

 付き合っているときは消えてしまえばいいって思っていた。けれど、死んでほしいなんて思っていない。今だって思うはずがない。

「私もずっと嫌いだったよ、美輝ちゃんのこと。ずーっと雅人くんの隣にいて、誰より雅人くんのこと知ってますって顔して、大っ嫌いだったから、お互い様だね」
「…だって、仕方ないじゃない! 今まで一緒だったんだから!」

 だってそう約束した。わたしからすれば町田さんのほうがあとから入ってきて奪い取ったようなものだ。

「雅人くんはね、邪魔だって言ってたよ?」

 鼻で笑って、そう言った。

 わたしを見下しながら、笑っている。わたしを傷つけようとしている。でも。

「そんなこと、雅人は絶対言わない」

 そんな嘘に騙されるわけがない。
 確信を持って、首を左右に振りながら答えた。