真知が帰ったのは、夕方五時になる直前だった。

 来週にも会う約束して真知を見送ってから、リビングに戻る。真知と話すことに夢中になっていて、一度も町田さんの様子を見ていなかったことを思い出した。映画もとっくに終わってしまっている。

 恐る恐る様子を確認すると、町田さんは窓際に座って空を眺めていた。蒸し暑いリビングにもかかわらず、汗ひとつかいていない涼し気な横顔が見える。それがとても儚げで、とてもきれいで、今にも消えてしまいそう思えて……体がぞくりと震えた。

「え、と、ごめん」

 つい、そんな言葉を口にしてしまう。
 町田さんはゆっくりと振り返ってから、怪訝な顔を見せた。

「なに謝ってんの。美輝ちゃんの家でしょ」
「まあ、そうなんだけど」

 いつもどおりの口調なのだけれど、元気が感じられない。なんとなく目をそらして、わざとらしくカチャカチャと音を鳴らしながら洗い物を始めた。

「あの子、仲いいの?」
「……真知のこと? まあ、中学からずっと友達だし、仲はいいかな」
「へー、いいね。美輝ちゃん友達多いんだね」

 普通だと思うけれど、他人から見たら多い方なのだろうか。クラスメイトとは一通り話はするし、一緒に遊ぶ子は何人かいる。他のクラスにも、友だちの友だちというつながりで話をする子はいる。でも、みんなそんな感じだと思うんだけど。

「多分、普通だと思うけど」
「私には、片手で数えるくらいの友達しかいないし。病院にだって誰もこないし」

 諦めを孕んだ口調に、どう返事をしていいのかわからない。そんなことないよ、なんて言葉はなんの意味もないだろう。だってわたしは町田さんの学校での生活を知らない。それによくよく思い返せば、女の子と一緒にいる姿を見た記憶がない。クラスが違うし、雅人と一緒にいるところしか知らなかったから気にしたこともなかった。

 この場合、なにか言ったほうがいいのだろうか。

 町田さんは友だちがいないことを寂しいと思っているのかすらもわからない。いいね、とは言っていたけれど、別にいらないし、と思っていないとも限らない。昨日から町田さんと接した感じでは、本人が友だちを作ろうとしなければ難しいのではないかとも思った。

 でも、わたしのことが嫌いだから、そういう態度をしているだけかもしれない。

 反応に困っているわたしを助けるように、チャイムが鳴った。