でも、今まで賢のそういう話は聞いたことがなく、自分でも驚くほど動揺してしまっているのがわかる。

 賢に彼女ができるだなんて、想像していなかった。雅人に対しても想像していなかったのに、町田さんという彼女ができたのだ。よく考えれば賢に彼女が出来たってなにもおかしいことではない。

 賢の隣に並ぶ女の子って、どんな子なのだろう。

 かわいい系だろうか。キレイ系だろうか。どっちでも賢にはお似合いのような気がしてくる。きっと賢は、彼女を大事にするだろうな、とか。そんなことを思い浮かべると同時にもやっとしたものが体内に発生する。

「嫉妬してるの?」
「っえ、あ、いや、そういう、わけじゃ」

 にやりと口端を持ち上げた真知に、慌てて首を振る。けれどしどろもどろになってしまった。これじゃ否定になんの説得力もない。

「美輝は、一見しっかり者だけどさみしがりやだもんねえー」

 真知は全てお見通しだ。ケラケラと笑って「あれだけ一緒にいたら嫉妬もするよ」と言った。
 本当に、それだけなのか、自分ではよくわからない。

「でも、実際微妙な関係よね、美輝と賢くん。仲いいけどふたりで遊んだことはないんでしょ」
「うん、ないなあ」

 いつも雅人が一緒だ。賢とふたりきりで遊びに行く、という状況は意図的に計画しなければ難しいだろう。ふたりきりになるなんて、昨日のような特別なときにしかない。

 前もふたりで話したのは、偶然だった。

 誰にも見せたことのない姿を、見てしまった日。見せてくれた、と言ったほうがいいのかもしれない。去年の、夏。あのとき、わたしは今まで思ったことのない感情を抱いた。

「賢って、なんか不思議なんだよねえ」
「そうなの?」
「雅人は、家族に近い感じで、だからこそそばにいてほしいって思うんだけど、賢は、いてくれたらいいなあというか。いなくても別にいいんだけど、いてほしいなあと……なんか、うまく言えないや」
「ふうん」

 頭を悩ませるわたしに対して、真知の返事は思いの外軽かった。

「ま、そのうちわかるんじゃない?」

 そういうものなのだろうか。