つい数時間前までいた人が、いなくなってしまうかもしれない。そう考えると相手が嫌いな町田さんであったとしても、いやだ、と思った。

「話聞いたとき“真知の友だちの彼女が事故にあった”って聞かされて、パニックで一瞬美輝のことかと思って血の気が引いたんだよー」
「そうだったんだ。でも突然そんな話されたらびっくりするよね。わたしも雅人や賢や真知の名前が出たら倒れるかもしれない」

 雅人も、電話がかかってきたときは顔面蒼白だった。雅人にとっては町田さんは彼女だから、そうなるのは当然だろう。

「わたしの大事な人は、みんな元気でいて欲しいよね」

 いなくならないでほしい。そばにいてほしい。
 人はいつかいなくなる、ということはわかっているからこそ。

「でも、まあ無事でほんと、よかった」

 残ったケーキを一口で食べてから、真知は満面の笑みでそう言った。

 このまま事故とか死ぬとかの話をしていると、気分が沈んでしまいそうになる。それを避けるかのような笑みに、わたしも「そうだね」と明るい声で答えた。


 その後は、いつもどおりの何気ない会話をずっと続けて過ごした。

 部活にいやな先輩がいることだとか、テレビの話、美味しかったお菓子の話。あとは心配していたことと、今度遊ぶ約束をしていたこともあり、聖子に電話をかけて三人で話したり。今度真知の部活が休みの日には、最近出来たという大型ショッピングモールにも遊びに行く約束をした。

「あ、そう言えばすんごいうわさ耳にしたんだけど」
「なになに?」
「賢くんのことが好きなサッカー部のマネがいるらしいよ」

 思わず、お菓子に伸ばした手が途中で止まってしまった。

「一見吊り目で冷たそうに見えるけど、話してみると話しやすいしねー。かっこいいわけじゃないけど、雰囲気イケメンみたいなところあるじゃん」
「……雰囲気イケメンって」

 ある意味失礼だけれど、そのとおりだと吹き出してしまった。