「はい、おまたせ」
「あー! 生き返る! ありがとー」

 差し出したお茶を勢いよく飲み干した真知が、口元を拭いながら声を上げた。汗も随分引いたようだ。空になったグラスにもう一度お茶を注ぐと、今度は少しだけ飲んで「ふー」と息を吐き出した。次に昨日焼いたチーズケーキを手にして美味しそうに頬を緩ませてくれた。

「今日は部活休み?」
「そうそう。毎日やってたら熱中症で倒れるよー。サッカー部はグラウンド走ってたけど」

 賢は部活を頑張っているのだろう。けれど、雅人はまだ休んでいるはずだ。

「……で、美輝は大丈夫?」
「え?」

 町田さんの件だと理解して「まあ」と曖昧な返事をした。正直言えば大丈夫じゃない。なんせ、町田さんが家にいる。

「町田さんの話、もう広まってるみたいだね。昨日聖子からもあたしに連絡があったよ。さすがに美輝には聞けないって言ってたけど、雅人くんが関係してるから美輝のことも心配してたよ」
「早いなあ、うわさって」

 どこからどう広まっていくのだろう。まだ二日しか経っていないのに。町田さんが他校の男の子と出かけていたこともきっとみんな知っているはずだ。

 人のうわさに戸は立てられない、とはよく言ったものだ。お父さんが事故にあったときも、病院から帰ってきたときにはすでにマンション中に広まっていた。どういう事故で、どういう経緯だったかも。誰がどうやって情報を仕入れているのか皆目見当がつかない。

「雅人くんは?」
「まだ、ちゃんと話せてない。でも、町田さんの手術は成功しているみたいだし、目覚めるのを待ってる状態だと思うよ」

 そう言うと、真知は「あーそうなんだ。まあ、よかったね」とホッとした顔を見せた。けれどすぐに真面目な表情になり「早く目覚めるといいね」と呟く。

「雅人くん気にしてるでしょ」
「どう、なんだろう」

 わたしも町田さんと元カレだという男の子の話は雅人としていないので、雅人がどう思っているかはわからない。雅人の性格を考えると、もしかするとそんなことはどうでもいいと思っている可能性もある。

 雅人は、そういう男の子だ。

「高校一年で、こんなに身近にそんな事故があると、ちょっと死っていうものに打ちのめされちゃうね。無事だったとは言え、運が悪かったら、ってことも想像しちゃうし」
「うん」

 あの日、雅人と賢と病院に駆けつけたとき、わたしは背筋が凍るほどの恐怖を抱いた。