「ねえ、美輝ちゃんなら、今の雅人くんを、笑顔にできる?」

 思いがけない台詞に、後ろに座っていた町田さんを振り仰ぐ。けれど、無表情だった彼女からは、どういうつもりでそんな質問をしてきたのかはわからない。

「……できるよ」
「そっかーすごいね、幼馴染って」

 そう答えたけれど、自信満々に答えられなかった自分に少しびっくりしていた。

 いや、きっと、できるはず。
 だってわたしたちはずっと一緒だったから。

 幼馴染だからっていうだけじゃない。わたしと雅人は特別な関係だから。今までなにがあってもそばにいて雅人を笑顔にしてきたのは、わたしだ。もちろん、逆も。

 その言葉を最後に、わたしたちは無言になった。テレビからは映画の音声が聞こえる。なのに、部屋の中はとても静かだった。
 


「お邪魔しまーす」

 一時過ぎになって、真知が家にやってきた。暑い中、自転車に乗ってきたのか汗だくだ。

「いらっしゃいー。クーラー効いてるよ。お茶もいるよね」
「うわー助かるー」

 自分の部屋に真知を招いてから、お茶を取りに台所に向かう。リビングでは、町田さんが本日二本目の映画を眺めていた。

 友だちが来るからちょっと、と一応声はかけたのだけれど、映画観てるからと押し切られてしまったのだ。真知とはリビングでゆっくり話をしようと思っていたのに、幽霊みたいなものに占領されてしまっている。

 まあ、おとなしくしてくれているなら文句は言うまい。

「じゃあ、わたしたち部屋にいるから」
「どうぞーごゆっくり!」

 小声で話しかけると、彼女はこちらを見ることなく手をひらひらと振って返事をした。

 ごゆっくりって、わたしの家なんだけど。