「自分でなんとかできないの?」
「出来たらしてるに決まってるじゃない」

 心底いやそうな顔をすると、町田さんはなぜか偉そうにそう言った。まあ、そりゃそうだろうけれど。

 だとしても、こんなふうにわたしに近づいてきて、平然と振る舞う彼女に振り回されるのはすごくいやだ。

「……浮気したからそういう目にあってるんじゃないの」

 町田さんを見下ろしながら、軽蔑の眼差しを向けた。

 ちょっと驚いた顔をした町田さんは、力なく笑ってから「うわさってこわー」と茶化すように呟く。

「見間違いじゃないの?」
「かもね。じゃあ、あの日病院にいたあの他校の男の子は誰?」
「兄弟とか」
「ひとりっこでしょ」

 間髪入れずに答えると、彼女は体を起こして態勢を整えた。そして肩をすくめる。言い訳は諦めたようだ。

「元カレ」
「……さいってー。なんなの元カレとデートって。信じらんない」
「元カレと会ってただけで浮気とか、美輝ちゃんって潔癖なの? 普通の男友達とどう違うの。美輝ちゃんが賢くんと遊んでたらデートなの?」

 そう言われて、返事に困ってしまった。

 たしかに、町田さんの言うとおりかもしれない。男の子と遊ぶだけで浮気かと言われると……。友だちにも、昔付き合っていた人と今は友だちとして仲良くしている子もいる。もちろんわたしには元カレという存在がいないのでよくわからないけれど。

 ぐぐっと言葉に詰まっていると、町田さんは勝ち誇ったように笑った。

 でも――わたしにはやっぱり理解できないし、そんなこと絶対したくない。それが潔癖なだけだと言われても、認められない。

「雅人は、知ってたの?」

 奥歯をぐっと噛んで、最後の攻め。

 それはかなりの効果があったらしく、今度は町田さんが言葉に詰まった。と、いうことは、雅人には隠して元カレと会っていたということだ。

「やましいことがないなら、なんで隠してたのよ。やっぱり最低じゃない」
「……別に、なんでもかんでも報告する必要もないでしょ」

 ああ言えばこう言う。

 言葉だけを受け取れば、たしかにその通りかもしれない。でも、彼女はわたしと目を合わせようとしない。それが、なによりの証拠だと思った。少なくとも、多少はやましさを感じているのだろう。