暑さに目を覚ますと、時間は十時を回っていた。

 体中が汗でべとついていて、体がダルイ。むくりと起き上がりながら、今日はこの汗の染み込んだタオルケットを洗濯しようと心に決めた。窓から見える空は、快晴だ。

 携帯にはお母さんからのメッセージが届いている。

『冷蔵庫にサラダが入ってるからね』という文字と、赤いハートマークの絵文字。

 今日こそはお母さんに朝ごはんを、と思っていたのに出勤する姿を見送ることもできなかった。

 ――『他の男の子とデート中だったなんてさあ』

 真知から聞いたあの台詞が、ずっと耳にこびりついて消えてくれない。

 テニス部の先輩が、終業式の後、他校の男の子と歩いている町田さんの姿を見かけたらしい。見間違いじゃないかと聞いたけれど、彼女と同じ中学校出身な上に、好きだった人を奪われたことがあるとのことで、絶対町田さんだったと言う。

 たしかに、終業式の日、町田さんは用事があると言っていた。それに、病院には他校の少年がいた。雅人に跪いて「ごめん」を繰り返していたのも納得できる。

 真知から聞いた話が真実だとすれば、雅人はどんな気持ちをこの二日間抱いているのだろう。

 そんなことを考えていたら、結局昨日もよく眠れなかった。

 今日は昼から真知が家に遊びに来ることになっているのに、気分は重い。シャワーを浴びてスッキリしたほうがいいかもしれない。ごはんはその後にしよう。

「連絡は、まだないか……」
「誰から?」
「誰ってまさ――」

 携帯を眺めながらひとりごちると、誰かがそれを拾った。反射的に答えようと思ったところでリビングにいる人影にやっと気付く。

「な、なんで」
「おはようー」

 ソファに寝っ転がってわたしに手をひらひらと振る町田さんがいた。

「な、なんでいるのよ!」
「だってここ以外に行くところなんだもん」
「そういうことじゃなくて! 病院帰ったんでしょ?」

 しかも、いつのまに家の中に入ったのか。ドアを開けられないと言っていたはずなのに。

「あ、今どうして家の中にって思ったでしょ? ちょうど美輝ちゃんのお母さんが出かけるところだったから、そのタイミングでお邪魔しちゃった」

 不法侵入じゃないか。
 驚きすぎて一気に目が冷めてしまった。

「話し相手がいないと暇だし、どうしていいのかわからないし。心配しなくても様態は安定してるらしいから。そのうち戻れるんじゃない?」

 だからってわたしの家に来るのは困るんだけど。