それでも思う。

 変わらない日々ってなんて楽で、幸せなことなんだろうって。変わってしまうって、なんて怖いことなんだろうって。それで得たものも、たしかにある、とはいえやっぱり変化なんてないほうがいい。

 だから、わたしは……雅人とずっと変わらないでいたかった。

「そか……」

 気まずそうな真知の声に、返事に困るようなことを口にしてしまったのだとわかった。なので無理やり明るい声で話を続ける。

「でもまあ、みんながいてくれたから大丈夫だけどね」

 上手とは言えない慰め方だったけれど。心配かけるよりも、わたしが笑うことで雅人が笑ってくれることが嬉しくて、ほっとした。そばにいてくれるのが嬉しかった。ずっと一緒にいてくれると言ってくれた。家族と同じくらい一緒に過ごした雅人から、そう言われたのはすごく安心したのを覚えている。家族だったお父さんがいなくなったけれど、それでも、お母さんもいてくれた。雅人もいてくれた。真知や賢が学校でわたしを待っていてくれた。

 ――『オレだったら、無理矢理にでも泣かせてあげたのに』

 ふと、賢の台詞が思い出される。



 あの日、屋上で、わたしは泣けばよかったのか、泣かなくてよかったのか、今もよくわからない。

 ただ、わたしが泣くと周りが困ることだけがわかっていた。それに、泣いたってなにもかわらない。


 人は、いつか死ぬんだと、そう思い知った。

 なぜか、あの頃のわたしは、そんなこと自分の身には降りかからないと思っていた。毎日毎日どこかで誰かが死んでいることを知っていたにもかかわらず。

 死は身近であるってわかっていても、身近にないもののような気持ちだった。
 それこそ、星みたいに。

「でも、雅人くんは、本当に心配だね……まだ、わかんないんでしょ?」
「え? うん、まあ時期に目を覚ますって言ってたし」
「あんまりこういうの言わないほうがいいんだけど、雅人くんとは中学も同じで美輝との関係も見てるからやっぱり、ムカついちゃってさ」

 途中から真知の話が理解できなくなってきて、電話を耳に当てながら首を傾げた。



「他の男の子とデート中だったなんてさあ」



 壁際にひっそりと佇んでいた少年。

 別の学校の制服に、少し汚れた服。胸元に、血のようなあとが残っていなかっただろうか。