自分の部屋にあるアルバムをめくりながら、雅人のことを思い出していると携帯が鳴る。

「あ、美輝?」

 明るい真知の声が響いてきて、なんだかホッとしてしまった。

「その、今日部活で聞いたんだけど……」

 ちょっと躊躇いがちな声色に変わり、話を続ける。それは、町田さんのことだ。どこから広まったのかはわからないけれど、もうほとんどの生徒に広まっているのだろう。

 ごまかす必要もないか、と思いつつも一応「あんまり人には言わないでね」と前置きをして現状を伝えた。もちろん、町田さんの幽霊らしきものが見えている話は黙っておく。こんな話信じてもらえるはずがない。

「そうなんだ……」

 戸惑った声で、短く言う。そのままお互いに黙ったまま数秒を過ごした。

「なんか、ピンとこないな……こんなこと、あるんだね」

 真知の言っている意味が何となく理解できた。

 突然同級生が事故にあって今病院でまだ眠ったままだ、と言われたってよくわからない。クラスも違って、なんの接点もない町田さんが、今、病院にいるだなんて、わたしがあの病院に行かなければ実感を持てなかっただろう。

「人が死ぬかもしれないっていうのが。あたしには今までそういうの一度もないし……大事な人が事故に遭うとか、想像もできないんだよね……」
「いなくなっても、実感なんかすぐに出ないよ」

 そう返事をすると「そっか」とだけ返ってくる。

 こういう話、そう言えば真知とは一度もしていなかったことを思い出した。わたしから話をすることもなかったし、わざわざ自分から話し出すようなものでもない。

「全然、泣けなかったな。泣いたけど、なんか、わけわからなくて。ほら、くも膜下出血で倒れて、そのまま……亡くなっちゃったから」

 あっという間だった記憶しかない。

 突然日常が変わって、その変化についていくので必死だった。お父さんがいなくなって、お母さんとふたりになった。変わったのに、毎日は変わらなくて、そういうのでいっぱいいっぱいだった。

 今はもう、そんな風には思わないけれど。