雅人は、毎年わたしの誕生日にはプレゼントをくれる。日付が変わった瞬間、誰より早くメッセージをくれるのも雅人だ。もちろん、雅人の誕生日に、わたしも同じことをしている。

「もうすぐ美輝の誕生日だなあー。なにか欲しいのある?」
「なんでもいいよ」
「それが一番困るのに」

 本当に、なんだっていいんだ。星空のノートでも、星の形のネックレスでも。それらに雅人の優しさが込められていることを、わたしは知っている。だから、なんでもいい。たとえそれが、わたしの嫌いなものであっても。

「雅人が選んでくれたものなら、コンビニのチョコでも嬉しいよ」

 素直にそう言うと、雅人はしばらく考えてから「じゃあ、楽しみにしてて」と少し照れくさそうに笑った。

 マンションから五分ほど歩いた先にあるバス停に着くと、丁度目的のバスがやってきてふたちで乗り込んだ。通学と通勤時間が重なるこの時間帯は、ぎゅうぎゅうに人が詰め込まれる。冬場はともかく夏場は地獄としか言いようがない。

 そんな時間を一〇分ほど過ごして、駅に着いた。溢れ出るようにバスから降りていく人と一緒に外に出ると、すぐそばのベンチに賢《けん》が眠そうな顔をして座っているのを見つけた。

「おーっす、賢」

 雅人が声をかけると、賢は視線をもちあげて「よ」と短く答えながら腰を上げた。

「今日も眠そうな顔してんなー、賢」
「ねみーんだよ」

 くあ、と大きな欠伸をしながらわたしたちと並んで改札に向かう。つり上がった目元には涙が溜まっていて潤んで見える。真っ黒の髪の毛の襟足はいつもと同じように寝ぐせがついていた。

「なにぼーっとしてんの」
「え? あ、おはよ!」

 腰を折って覗き込んできた賢に、慌てて挨拶をすると苦笑されてしまった。なんだか恥ずかしくて、前髪をいじりながら視線を逸すと「早く起きろよ」と頭をこつんと叩かれた。

 雅人ほどではないけれど、賢もわたしにとっては幼馴染だ。小学校高学年のときに雅人と賢が同じクラスになり、仲良くなった。それから自然とわたしも一緒に過ごすようになった。同じ高校に進んでからは、こうして一緒に学校まで向かうようになった。

 まるで双子の姉弟のように常に一緒にいるわたしと雅人、そしてその親友の賢。揺るがない関係。この関係がずっと、続くと思っていた。


 ——少なくとも、二ヶ月半前まではそれを信じていた。