雅人が心配だからそばにいたいけれど、わたしが行ったところで今はなにもできないこともわかっている。町田さんのおばさんとおじさんも随分疲れていたので、わたしが行って気を使わせるのも申し訳ない。

「無事、みたいだったし。明日も雅人が病院にいるかもわからないし」
「まあそうだな。わかった。もしなんかあったら連絡しろよ」
「ありがと」

 背後で誰かが賢を呼ぶ声がした。休憩時間の合間を縫って電話をしてくれたようだ。はい、と呼返事をしてから「あ、わり、じゃあな」とわたしに別れを言って慌ただしく電話が切れる。

「ねえ」
「……っわ! びっくりした! な、なによ」

 背後に、それこそ背後霊みたいに町田さんが立っていて、心臓が飛び出るかと思った。

「今の電話、誰?」
「だ、誰って、関係ないじゃない」

 なんでそんなことを気にするのだろう。

「あ、ちょっと!」

 ふーん、と言いながらわたしの横をするりと抜けて、部屋の中に入っていく町田さんを慌てて引き止める。けれど、その手が掴めない。わたしが掴もうとすると、町田さんの腕がにゅるんと滑っていく。

 本当に、ここにいるわけじゃないんだ。
 そう再確認した。そして、ちょっとした気まずさを感じた。

「言ったじゃない。私はなにも触れることができないって」

 言葉に詰まってしまったわたしを、彼女は笑い飛ばした。さっきまでは彼女のその口調に苛立ちを感じていたけれど、今だけは助かったと思った。だって、どんな表情をすればいいのか、次にどんな言葉をかければいいのか、ちっともわからなかった。

「ふーん、ここが美輝ちゃんの部屋ねえ」

 部屋をキョロキョロと見渡しながら歩き周る。別になんの変哲もない、個性もない部屋。

「なんで星、好きなの?」
「え?」

 突然なに。

 首を傾げると、彼女は棚の上にあったアクセサリー入れを指さして「星、好きなんでしょ」と改めて聞いてくる。アクセサリー入れには、雅人にもらったヘアピンや、ゴムや、安物のネックレスとかピアスだ。それは必然的に全てが星のモティーフになっている。

「鍵にもついてたよね、星」
「ああ、うん」

 それも、雅人にもらったものだから。
 でなければ、この家に星のアイテムなんかひとつもあるわけがない。