嫌い、と互いに口にした。恐らくわたしと町田さんは相容れることのない関係だ。
だから、もう彼女はどこかに行くだろう、そう思っていた。
「ねえ、美輝ちゃん暇なんだけど」
リビングでテレビを見ていた町田さんがわたしを呼ぶ。しばらく無視していると、「ねえ」「ちょっと」「美輝ちゃんってば」と何度も声をかけられた。
「なんなの、もう」
「チャンネル変えてくれない?」
そう言って、くいっと顎でリモンコンを指す。
自分でやればいいじゃない、と言いたいところだけれど、空気みたいな存在の彼女にそんなことは出来ない。今、ケーキを作っていて忙しいんだけど、という言葉を飲み込んでから無言で手を洗いリモコンを手に取った。
「これでいいの?」
「ありがとー」
……どうしてわたしが町田さんの介護をしなくちゃいけないのだろう。
背を向けてキッチンに戻りながらため息を落とした。
あのままどこかに行くだろうと思っていた町田さんは、まだ家にいる。嫌いだ、と宣言した相手の家でこんなにも図々しく振る舞える町田さんがすごいとすら思えてくる。そして、なぜか振り回されいるわたしもすごい。
文句を言えればいいのだろうけれど、事故にあったのだ、と思い出すとどうしても言葉にすることができない。もちろん、顔には思い切り出している。町田さんはそれに気付いているはずなのに、知らないふりをする。彼女のメンタルは相当強いのだろう。それに反して、わたしは虚勢を張っているだけにすぎない。
気分が沈んでしまいそうになった瞬間、ポケットに入れていた携帯が音を鳴らしながら震え始めた。
雅人が帰ってきたかもしれない!
と慌てて取り出したけれど、賢の名前が表示されていた。一日に二度も電話をしてくるなんて珍しい。時間は四時前。まだこの時間は部活のはずだ。
「はいー」
「よ。家にいんのか?」
そうだよ、と返事をしながら自分の部屋の方に向かった。電話しているのを人に見られるのはなんだか落ち着かない。
「明日も行くつもりか聞いてなかったから」
「……まだ、考えてない」
自室のドアに手をかけながら正直に答えた。