「手術は終わったけど……本当に大丈夫なの?」

 お父さんと同じような名前に、さっき安堵したはずの気持ちが薄れていく。

「なに、心配してくれてんの? だいじょーぶでしょ。気持ちよさそうに眠ってたし。お医者さんは大げさなだけ。私はこんなに元気なのにみんな泣いてるんだもん、びっくりしちゃった」

 そりゃ、泣くよ。心配しているんだもの。町田さんのことが大事だから、もしもを想像してしまって苦しくもなる。

 なのに、町田さんの話し方はまるで笑い話みたいに聞こえる。

 今も、心配しているのに。手術が終わったって、手放しで喜べるはずがない。あの場にいたはずの町田さんには、それがわからないのだろうか。

 さっきまでは明るく振る舞える彼女のことをすごいな、と思った。

 でも、今は、なんて無神経な人なんだろうと思う。

「それだけ心配されてるってことじゃない」

 声のトーンを落として、怒りを込めて口に出した。

 さすがに町田さんも気付いたらしく、笑うのをやめてわたしを視線を受け止める。

 雅人にあんな表情をさせたのに、どうしてそんなことを言えるのかわたしにはわからない。だってわたしは、雅人に笑っていてほしいと思っている。できれば、それを独り占めしたいとすら思っている。いつだってわたしの隣で、あの温かな笑みを作っていて欲しい。

 それを、町田さんは奪った。
 その上、雅人を悲しませたのだ。

 昨日に比べたら、雅人は随分表情が和らいだけれど、疲れはありありと浮かんでいた。まだ、心の底からの優しい笑顔ではなかった。それは、まだ、心配しているからだ。

 無理をしていた。わたしに心配させないために。わたしにはそんなことしなくてもいいのに。
 町田さんとなんか別れてしまえばいい。いなくなってしまえばいい。そのせいで雅人は傷つくかもしれないけれど、それでも、絶対その傷を癒やしてみせる。かつてわたしにしてくれたように。

 いなくなればいいよ、町田さんなんて。別れてしまえばいいって思ってる。雅人が傷つくのはいやだけど。それでも、別れて欲しいって思ってる。

「美輝ちゃんって、私のこと嫌いでしょ?」
「――うん」

 素直にそう返事をしてしまった。けれど、町田さんは鼻を鳴らして足を組み替える。そして

「私も、美輝ちゃんのこと嫌い」

 はっきりとそう言った。