一見あっけらかんとしているけれど、雅人に謝っていたっていうことは、心配をかけて悪いと思っているのだろう。多分。それに、自分が眠っている姿を見るのも、辛いのかもしれない。あの場所を離れたいと思ったのかもしれない。

 わたしだったらどうするだろう。想像もできない。
 彼女に対してほんの少しの同情心が浮かんだ。

「なんで私がこうなったか知りたくない?」
「まあ……少しだけ」
「まあ、私もわかんないんだけどねー」

 かわいらしく笑みを浮かべて話を続ける。

「気がついたら病院にいたんだよね。目の前で自分が手術されてるんだよ。びっくりしちゃった。それから先生とか親とかの話を盗み聞きして、事故に遭ったってことまでは理解した、って感じかな」

 事故に遭ったことしかわからないってことか。

 ふうん、と言いながらお茶で喉を潤す。

 明るい口調に、とりあえずは大丈夫なんだろうな、という答えを出した。

 雅人の様子では、まだ不安があるのだろうと感じたけれど、そのうち目覚めるのだろう。彼女自身も自分の体の心配はあまりしていないみたいだし。

 昨日あれだけ焦ったのがちょっとばかみたいだ。まあなにもないに越したことはない。
 とはいえ。

「こんなことあるんだねー」

 こんなにも明るく話せるのはすごい。

 わたしだった、きっと不安で仕方なくてどこかでひとり閉じ籠もっていただろう。

「外傷性くも膜下出血、てやつなんだって」

 聞き覚えのある名前に、一瞬グラスを持つ手が止まった。

「なに、急に固まって」
「あ、いや、別に」

 眉根を寄せる町田さんから目をそらして記憶を遡った。

 くも膜下出血、って、お父さんがなくなったときと同じ名前だ。外傷性って言っているからお父さんと全く一緒じゃないっていうのはわかる。それでも、脳の怪我だ。町田さんの両親も雅人も、相当心配したのもうなずける。わたしでも昨日そんな話を聞いていたら動揺していただろう。