恐らく、町田さんはわたしが彼女の姿が見えていることに気付いたのだろう。このまま無視し続けていたら、諦めてくれるだろうか。

 生霊だか魂だかなんだからわからないし、こんなこと信じられないけれど、こんなにもまざまざと見せつけられては信じるしかない。でも、それを受け入れるのは難しい。

 生ぬるい電車の空気の中で、わたしの気持ちはどんよりとした暗雲に染まった。



 駅に着いて、賢とはすぐに別れた。このまま家に帰り、すぐに部活に向かうのだという。こんなに暑い日にグラウンドで駆け回るんだなあと想像すると笑みがこぼれた。

 さて、この後どうしようか。

 まだ時間はお昼。このまま家に帰ってもいいけれど、帰ったところですることはない。夏休みの宿題に手を出すのはまだ早い気がする。お腹も空いてきたけれど、ひとりでどこかの店に入る気分でもない。

 家に帰ってなにか作ろうかな、なにがいいかな、と冷蔵庫の中身を思い出して、そう言えば昨日の夜で材料が殆どなくなっていたことを思い出した。

 一旦家に帰ってクーラーで体を冷やしてしまうと、灼熱の中に出ていく気にはなれそうにない。ならば、バスに乗らずに歩いて帰ろうと決める。途中にスーパーがあるから寄って帰れば、今日はもう家を出ないで済むだろう。そしてお昼ごはんを作り、時間があるからちょっと手の込んだ晩御飯をお母さんに振る舞ってみよう。それに、もしかすると夜には雅人も家に帰っているかもしれない。雅人の好きなチーズケーキを作って置くのもいい。

 太陽が照りつける中、明るくなった気持ちで足を踏み出した。

 ――町田さんの姿は、見えないふりをして。

 なるべく前だけを見て歩き、スーパーに立ち寄った。町田さんを視界に入れないように意識していたけれど、いつのまにか彼女はわたしのそばにぴったりと寄り添っていていやでも目に入る。

 わたしの様子を探るような視線がまとわりついて、落ち着かない。勘弁して欲しい。

 もしかして、わたしのそばに居続けるつもりなのだろうか。

 家の玄関の前までついてきた彼女に、そんないやな予感を抱いた。それは本当にやめていただきたい。