賢よりも早く脚を進めて、後ろを振り返らずに一直線に病院の出口に向かう。振り返るのが怖くて、逃げるように突き進んだ。

 病院の自動ドアを抜けてから、賢が隣に並んだのを確認してちらりと背後に振り返る。

「な、んで……」

 ぽつりとこぼした言葉に、賢が「なに?」と言ったけれど、なにも言えなかった。

 わたしたちの二メートルほど後ろに、町田さんが軽い足取りで歩いていた。

 なんで着いてきているの。雅人のそばにいればいいじゃない。雅人があんなに心配しているのだから。なにを考えているのかさっぱりわからない。

 町田さんを無視してくるりと前を向く。さっきよりも歩く速度をあげて、駅に向かっていく。その間やっぱり気になってしまってちらちらと背後を確認するけれど、町田さんは相変わらず着いてきた。

 賢は落ち着かないわたしに「なんだよ」「どうした」と繰り返し話しかけてきた。

「え、あ、いや、……大丈夫かなって」
「……まあ、そうだな」

 わたしのしどろもどろな発言に納得したような返事をくれたものの、怪訝な顔は崩さなかった。でも、なんて言えばいいのかわからない。町田さんのことを言えば、頭がおかしくなったと思われるだろう。

 賢に、町田さんは見えていない。見えていたら無視するはずがない。

 わたし以外の誰も、町田さんの姿が見えていないことは、駅に着くまででも十分に理解できた。駅の改札は誰かの後ろにぴったりくっついて通っているけれど、誰も咎めない。人とぶつかっても町田さんがよろけるだけで相手はなにもなかったかのように歩き続けている。

「どうした、美輝。後ろになんかあんのか?」
「え? あ、いや……」

 適当に笑って誤魔化すと、賢が呆れたようにため息をつく。

「無理して笑わなくていいだろ、今は」
「……そんな、ことは」

 否定を口にしようとしたけれど、それを遮るようにホームに電車がやってきた。

 一体どんな顔をしていたのだろう、自分の頬に手を当ててみたけれどわからない。

「でもまあ、よかったな、とりあえず無事で」

 電車に足を踏み入れながら賢がぽつりとそう言って、わたしは「そうだね」と横目で町田さんを見ながら返事をした。

 電車にまで乗り込んできた彼女は、わたしをじっと見つめている。視界の端っこに町田さんの姿が見えるけれど、無表情のまま、顔を逸らした。