エレベーターのない築十五年の五階建てのマンション。ここで、わたしは雅人と一緒に育った。

 A棟とB棟、そしてC棟の三つの建物が渡り廊下でつながっているこのマンションは、わたしたちが生まれた頃に出来た集合住宅らしい。

 三つの建物の中央に小さな公園があり、わたしと雅人はそこで出会った。と言っても、お互いの両親が意気投合し、毎日のように遊ぶようになっただけ。気がつけば、いつだってわたしの隣には雅人がいた。一緒の布団で眠ったことも、一緒にお風呂に入ったことも、数え切れないほどある。まるで双子のように、わたしたちはどこに行くにも一緒だった。わたしの手には常に雅人の温もりがあった。

 幼いときは雅人は背が小さくて、泣き虫で、わたしはそんな雅人を守るように強く振る舞っていたのを覚えている。けれど、本当は誰よりも優しくて、いつでもそばにいてくれる雅人を信じていたから、わたしは強くいられたんだろう。

 中学生になり、お互いの家に行くことは減った。けれど、雅人は今も昔と変わらない笑みをわたしに向けてくれる。

 こうして毎朝学校に行くのも、約束を交わしたわけじゃない。それが当たり前なだけ。同じ高校に進学したのだって、お互いに一緒のところに行くことを当然だと思っていたからだ。

 だってわたしたちは、ずっと一緒にいる、って約束をした。だから——。

 ここ最近毎日よぎる不安を払拭するように頭を振って、雅人の隣を歩きバス停までの道を歩く。いつの間にか地面に落としていた視線を上に向けて、真っ青な空を仰いだ。広くて高い空に、セミの鳴き声が吸い込まれていく。

「明日から夏休みだなあー」

 ぼんやりしていると、雅人が明るい声を出してわたしに笑いかけた。

 数か月前までのわたしなら、その言葉に笑顔で「楽しみだねー」と返事が出来ていただろうけれど、今はちょっと、憂鬱だ。けれど、それを悟られるわけにはいかないので、普段よりも明るい笑顔を顔に貼りつけて「そうだね」と明るい声を出す。

「あれ、美輝、まだそれ使ってんだー」

 わたしの頭上に目を留めて、雅人はちょっと嬉しそうに頬を緩ませた。

「このヘアピン? 使ってるよー。お気に入りだもん」

 星空柄のヘアピン。これは一昨年のクリスマスに、雅人がわたしにくれたアクセサリーのうちのひとつだ。もうひとつは星空柄のバレッタだった。

 寝癖を直すためだけに身につけただけなのだけれど、それはもちろん黙っておく。本当は大切にしたいから箱に入れて保管しておきたい。でも、こうして身につけると雅人は嬉しそうな顔をしてくれる。