「その、大丈夫なのか? 町田さん」

 賢が、雅人に問いかけるとほんの少し言葉をつまらせた。

「多分……大丈夫だと、思う。……二週間位は油断できないみたいなんだけど」
「そうか」

 雅人の返事に、わたしも賢も、ホッとした表情をした。

「せっかく来てもらったのだけれど、中には家族しか入れなくて」

 おばさんが申し訳なさそうに頭をさげるのを、慌てて「こちらこそすみません」と止めた。
 謝られるような間柄じゃないし、そこまでの気持ちを抱いていなかったわたしなんかに、そんなことをしないでほしい。

「とりあえず、よかった」

 後ろめたさを隠しながらもそう呟くと、背後からドアが開かれる音がした。

 みんなが一斉にそちらに視線を向けると、集中治療室からひとりの看護師さんが出てくる。なにか問題があったのかと、町田さんのおばさんや雅人の表情が凍りついた。けれど、看護師さんはわたしたちを気にする様子もなくそのまま素通りしていった。

 そして。
 集中治療室のドアが閉まる直前。

 制服姿の町田さんがきょろきょろとあたりを見渡しながら出てくるのが見えた。

 昨日と、同じ姿だ。
 眠っているはずの彼女が、動き回っている。しかも制服姿で。

 昨日と同じように、彼女の姿はわたしの目にははっきり見える。幻覚ということで無理やり自分を納得させていたけれど、やっぱり、見える。今ここにいる彼女は、幻なんかじゃない。

 事故にあって、手術をして、眠っているはずの町田さん。ということは少なくとも、幽霊なんかではないだろう。では、なんなのか。

 呆然と彼女を見つめていると、賢が「そろそろ俺らは帰るか」とわたしの背中に触れた。

「──え?」
「オレらがここにいても仕方ないだろ。中には家族しか入れないって言うし。雅人はおばさんが一度家に帰る間そばにいるって言ってるし」

 賢が怪訝な顔をしてわたしを見る。それでも、わたしのほうが怪訝な顔をしていたんじゃないかと思う。やっぱり、町田さんは、誰の目にも映っていないようだ。