「賢!」

 駅に着くと、賢がいつものようにダルそうにベンチに座って待っていた。わたしが声をかけるとのそりと立ち上がり、「よ」と短く挨拶を口にする。

「……ずっと待ってたの?」
「いや、さっき」

 並んで改札に向かいながら、ぎこちなく会話をする。けれど、それきり口を開くことなくホームで電車を待った。

 ふたりきりで並ぶと、賢の身長がなんだか急にぐっと高くなったような気がした。

 こうしてふたりで電車に乗るって、よく考えたら初めてのことだ。いつもわたしたちの間には雅人がいた。真ん中に立って、わたしと賢に話を振っていた。ふたりになると、途端に口数が少なくなるのは、今、雅人のことを心配しているから、というだけではないだろう。

 なんだか気まずい。でも、同じくらい安心感がある。

 電車に乗り、座席に並んで座った。

「雅人から連絡は?」
「まだ、ない」
「まあ、病院だもんな」

 また短い会話をして、互いに黙った。ふたりで、向かいの窓の先にある流れてゆく景色を見つめる。

 昨日、雅人と別れてから、連絡は一度もない。賢の言うように、病院で、それどころじゃないからなのだろう。そう思うとなおさら不安が募る。町田さんの状況に、ではなく、雅人に。

 苦しんではいないだろうか。泣いていないだろうか。少しでも体を、心を休めてくれていたらいいけれど。

 もしも、そんな状態だとしたら、どうして雅人はわたしに連絡をくれないのだろうとまで思ってしまう。いつでもどこにだって駆けつけるのに。

 そんなこと、雅人に知られたらきっと幻滅されちゃうだろう。

 そして賢は、きっとわたしがそんなことばかりを考えているのを察しているだろう。

 多分、今のわたしはとても醜い。そんな顔を見られたくなくて、それから駅に着くまでずっと俯いて過ごした。

 途中で駅で一度乗り換えをして、それから十分ほどしてから電車を降りた。ここからは徒歩で病院に向かう。昨日も今日も、わたしは賢の後ろをついて歩くだけ。携帯で地図を見ることもなければ、迷うような素振りもない。確信を持って道を進んでいる。

 昨日の帰りは気づかなかったけれど、いつの間に駅までの道を調べていたのだろう。賢がいなければわたしはその場その場で行き方を調べてあたふたしてしまっていた。賢はいつだって、いろんなことを考えて行動できる。自分のことでいっぱいいっぱいになってしまうわたしとは大違いだ。

 眩しい太陽に目を顰めながら「……賢は、すごいな」とひとりごちた。けれど、その声は賢にも届いたらしい。首を傾げながら振り返る。

「なに、急に」
「いや、手際がいいっていうか。人のこともよく見てるし」
「別に見てねえよ。見たい奴だけ見てんだよ。お前と一緒だ」

 そんなことはない。だって賢はいつだってわたしの変化に気付いてくれる。そしてさり気なく助けてくれる。わかりやすい言葉にはしないけれど、そのくらいが、わたしにはちょうどいい。