だから。今のわたしにできることがあるのなら、なんでもしたい。あの日、雅人からもらったものを、今度はわたしが少しでも返すことができればいい。

「よし」

 そう小さく気合を入れて腰を上げると同時に、リビングのテーブルに置いたままにしていた携帯がガタガタと震えだした。慌てて手にして画面を見ると、賢の名前が表示されている。

「もしもし、賢? どうしたの電話なんて珍しいね」

 疑問に思いながら通話ボタンを押して呼びかける。

「病院行くんじゃないかと思って。オレも行くから、駅で待ってる」
「は?」
「行くんだろ?」

 わたしの返事なんてお見通しなのだろう。賢の口調からは「行かない」という返事を認めない強さがあった。そして、わたしはまさしく賢の言うように病院に行くところだった。

「うん」
「じゃ、待ってる」

 素直に肯定すると、そう言ってぶつりと通話を来られた。電話の向こうからはプープーという機械音が響く。

 なんでわたしが病院に行くのがわかったんだろう。それに、どうして賢も行くんだろう。クラブは大丈夫なんだろうか。でも、賢がいてくれるのだと思うと、力強くも感じた。

 待ち合わせ時間を言っていなかったので、賢はもう駅に向かっているのかもしれない。まだ用意をしていないので慌てて服を着替えてカバンを手にして家を飛び出る。走ればバスがやってくる時間に間に合うはずだ。

 駆け足で階段を降りて、そのままバス停に向かう。わたしの予想通りちょうどいいタイミングでバスがやってきてそれに乗り込んだ。

 ポケットから取り出した携帯は、昨日から静かなままだ。ぎゅっと握りしめて、賢が待っているだろう駅に向かう。気持ちだけが無駄に焦ってしまい、落ち着かない。