わたしには、大嫌いな女の子がいる。
笑顔も、居場所も、大切な約束も、大好きな人も、あの子はわたしから奪ってしまった。
だから、大嫌い。あの子なんて、いなくなっちゃえばいいのに——。
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朝八時になると、家を出る。
玄関にある鏡で、今日の髪の毛をチェックするのはわたしの日課だ。剛毛で、少し癖のある髪の毛を、家を出る前に必ず一度確認する。セミロングを低い位置でお団子にしているのも、まとまりにくいからという理由だ。
さらさらのストレートヘアだったら、どんな髪型にだってきれいにきまるのになあ、と思いながら、前髪がぴょんと一房変な方向に飛んでいるのを見てため息をつく。
靴箱の上にあるヘアピンセットから夜空の柄が印刷されているものを手にして寝癖の直らない前髪を止める。このまま数時間過ごせば落ち着くだろう。
よし、と小さく呟いてから、鍵を手にしてドアを開けると、熱気がわたしを襲った。
七月下旬の空気は、重い。今日は特に暑い日になりそうだ。
誰もいない部屋の中に小さな声で「行ってきます」と言って、バタンとドアを閉めてから鍵をかける。鍵をつけているキーホルダーの小さな鈴が、ちりんと音を鳴らした。
そのままエレベーターに乗り込み、一階に降りてエントランスの壁にもたれかかった。と、同時に非常階段の扉から雅人が顔を出した。二階に住んでいる雅人は、いつも階段でやってくる。
「おーっす、美輝」
「おはよ、雅人」
ほんのり茶色い猫っ毛をゆらゆらと揺らしながら、雅人が微笑む。少しタレ気味の目は笑うと細くなり、いつも以上に目尻が下がる。わたしの大好きな雅人の笑顔だ。
この場所で雅人と出会い一緒に学校に向かうのは、幼い頃から変わらない日常だ。わたしの朝はいつだって雅人の笑顔で始まる。