こんなにも美しい涙を見たのは、初めてだった。涙を美しい、と思ったことすら初めてだ。

 涙一つ一つが星屑のように輝いて見える。彼女の大きな瞳から、ぽろりぽろりとこぼれ落ちて、頬を伝う雫。

 そんなことを思う自分はなんて乙女チックなんだろう。

 雅人のそばに跪き、彼を覗き込みながら、町田さんはずっと泣きながら謝罪を繰り返していた。ごめんね、ごめんね、と囁く声。

 けれど、雅人は彼女の目を見ようとはしなかった。

 そして周りを見渡してみても、誰も町田さんの存在が目に入っていないかのように神妙な顔でじっと座っていた。

 なんだろう、この、違和感は。

 わたしひとりだけが、町田さんの姿を捉えている。そう思った瞬間、背筋にぞわりと震えが走った。

「あ、の」

 息を止めていたことに、言葉を発してやっと気がついた。息苦しさに次の言葉が出せないでいると、目の前のおばさんがハッとして顔を上げる。そして、涙をいっぱいに溜めた瞳をわたしに向けた。

「あ、ごめんなさいね。来てくれてありがとう」
「あ、いや……」
「あの子のことをこんなふうに心配してくれる友だちがいてくれて、よかった」

 わたしも賢もそれに対して上手い返事が思いつかず、「はあ」と曖昧に頷いた。

 わたしたちは町田さんと親しいわけではない。ただ、雅人が心配でついてきただけ。雅人が付き合っていなければわたしたちはここに来ることはなかっただろうし、事故に遭ったことすら知らないままだっただろう。

 けれどそんなこと言えない。

 町田さんのお母さんの言葉から、彼女に友達が少なかったのかもしれない、と思わせる雰囲気があったからなおさらだ。

 もちろん、町田さんを心配していない、というわけでもないし。

「まだ、時間がかかると思うの。今日は、親御さんも心配するから……」

 その言葉の意味を察するのは簡単だった。

 一瞬、賢と視線を交わしてから雅人の方を見やる。雅人はまだ俯いている。そして、そのそばらには町田さん。どう見ても、町田さんがそこにいる。

 なのに、どうして誰も彼女を見ようとしないのだろう。

 そこにいるよ、町田さん元気じゃない、と言えばいいのだろうか。けれど、みんな彼女を“いないもの”として振る舞っている。彼女の名前すら口にするのも憚れるような待合室の空気がここには漂っている。

 戸惑いながらも彼女を見つめていると、隣の賢が「はい」とおばさんに答えた。