——わたしが、消えちゃえばいいって思ったから?

 ううん、そんなのたまたまただ。思っただけで事故に遭うわけじゃない。そんなのありえない。

 それにわたしは、こんなのを望んでいたわけじゃない。ただ、雅人から離れて欲しかっただけ。別れてほしかっただけ。それだけだ。

 自分に必死に言い聞かせながら顔を上げて、すぐそばにあった窓から外を見つめた。星が、輝いている。

 三年前のあの日も、わたしはここから空を見ていた。

 お父さんも、ここに運ばれた。わたしはここで、同じ場所で、お母さんと無言で数時間を過ごした。どのくらいの時間だったのかは思い出せないけれど、途方も無く長い時間だったことはわかる。少なくてもわたしにとっては、終わらないかと思えるほど長かった。

 お母さんは何度か誰かに呼び出され話をしに席を立った。わたしは、星空を眺めていた。

 そしてお父さんはそのまま帰ってこなかった。
 ぞくりと、背筋が震えた。

 町田さんも同じように、このまま帰ってこないかもしれない。

 人が死ぬっていうことは、もう会えないってことだ。泣いても喚いても、文句を言っても嫌っても、もうなにも言ってくれない。言い訳もしないし、謝罪もしないし、怒ることもない。

 ただ、突然、いなくなる。
 わたしはもう、あんな経験、二度と味わいたくはない。そして、誰にも、そんな経験してほしくない。

 残される側の辛さを、わたしは知っている。残されたわたしたちは、ただ、必死に前にしか進めないことを。後ろを振り返りたくても、出来ないことを。振り返ったとしても、意味がないことを。わたしは知っている。

 思い出が美化される。そんなふうにして過去を抱きしめて前を向く。それが虚しいことも知っている。美化されたものは、本物じゃない。だけど、わたしとお母さんはそんなふうに、過ごすしかできなかった。

 今見える星たちは、あの日見えたものよりも眩く、いつもよりも近くて大きいように感じる。
 掴めそうだ——と思わず、手を伸ばしかけたとき。

「雅人くん……」

 たしかに聞こえた、声。聞き覚えのある、声だ。

 ゆっくりと、視線を雅人の方に向ける。
 雅人のそばには、ひとりの女の子がいた。

 わたしと同じ制服に身を包み、長くてきれいな髪の毛をおろしていて、すらりと伸びた手足。間違いなく町田さんだ。

 雅人のそばに膝をつき、震える彼の手を、彼女のきれいな手がそっと包み込む。肩から、髪の毛がサラリと落ちて揺れた。

「ごめんね」

 なにに謝っているのかは、わからないけれど、町田さんはとても苦しそうな顔をして、はらはらと涙をこぼしていた。

 その姿は、とても、とてもきれいだった。