携帯を手にして、焦点の定まらない瞳が小刻みに揺れている。顔は真っ青に染まっていて、なにかがあったのは一目瞭然だった。となりの賢と見合わせて同じように戸惑いの表情で再び雅人に視線を戻した。

 町田さんからの電話だと思ったけれど……違ったんだろうか。

「す、すぐ、行きます」

 声が震えている。
 どこに行くんだろう。

 まるで、あの日のお母さんのようだ。
 いやな予感が浮かんできてわたしの動機が激しくなっていく。

「あ、の、きみちゃんは……無、事……なんですか?」

 その言葉に、わたしの体温がぐっと下がった。

 雅人は小さく「はい」と告げてから携帯を耳から離した。そして、呆然とした表情でわたしと賢を見つめる。

 今にも泣き出してしまいそうな瞳がわたしを見つめてきて、わたしはどういう表情で、どんな言葉をかければいいのかわからなくなった。

 どうしたの? と聞きたいのに、心臓が早鐘を打っていて声にならない。

 雅人も同じような状況なのか、何度も口を開いてはうろたえた様子で髪の毛をくしゃりと握りつぶしてはあちこちに視線を動かした。

「き」

 息を吐き出すように、かすかな言葉が聞こえた。

「きみちゃんが、事故だ、って……」
「——どこの病院だ」

 雅人の消え入りそうな声に、賢がすぐさま席を立って声をかけた。そしてそのまま雅人の腕をつかんで立たせてすぐに見せを出ようと歩き始める。

 雅人はパニックになっているのか、引きずられるような体制で「え? え?」と呟いていた。テーブルに残されたわたしも状況がうまく理解できなくて、雅人と同じように慌てるものの、なにをしていいのかどうしたらいいのかわからなくて手を宙に彷徨わせる。

 片付けないと。鞄持たないと。連絡しないと。
 事故ってなに? 病院ってどういうこと?

「行くんだろ! どこだ!」
「……あ、ああ……」

 すがりつくような雅人の瞳を見て、わたしもしっかりしなくちゃと自分を奮い立たせてやっと立ち上がった。

 そうだ、わたしも、ついていてあげなくちゃ。
 あの日、雅人がわたしのそばにいてくれたように。しっかりしなくちゃ。