「あ、そうそう、それでさ」

 俯いているからか、雅人はわたしの様子を気に留めることもなく話を続けた。気づかれると困るのに、少しくらい気付いてよ、と言いたくなるほどの明るい声。

「今度の美輝の誕生日、きみちゃんも一緒でいい?」
「……え?」

 目の前が、真っ暗になった。
 いやだ、そんなの、絶対にいやだ。

「きみちゃんが、一緒に過ごしたいって。美輝も、たくさんの人に祝われたほうが楽しいだろ?」

 そんなの絶対嘘だ。わたしと雅人が一緒にいることが気に入らないだけ。

 毎年誕生日は必ず一緒に過ごしていた。中学に入ってからは真知や賢も一緒に、楽しく過ごしていた。もちろん雅人の誕生日も。

 なのに、どうしてそんな日に、嫌いな町田さんまで誘わなくちゃならないの。町田さんだってわたしのことが嫌いなのに、どうして。

 そんな人に、祝ってほしくなんかない。

 嫌い……! 大嫌い!

 早く別れちゃえばいい。消えちゃえばいい。町田さんなんか——今すぐ消えちゃえばいいのに!

 吐き出せない言葉をこらえながらテーブルの下で拳を作った。こんなこと口にしたら、雅人に嫌われてしまうかもしれない。でも、なくならないこのドロドロしたわたしの醜い気持ち。

 町田さんさえいなければ、こんな気持ちになることなんてなかったのに。

「いや——」

 そう言おうとした瞬間——プルルル、と携帯の着信音が鳴った。

 雅人がポケットから慌てて取り出して「はい」と、優しい声を発した。それだけで、相手が町田さんだとわかる。分かってしまう自分が悔しい。

 俯いたまま、じっとしていると、賢が「もういらねえ」とポテトをわたしの目の前のトレイに放り投げた。

「なに、急に」
「ポテト食っとけ」

 偉そうな口調に、思わずふふっと笑みをこぼすと、賢は歪んだ笑顔を見せる。困ったやつだな、って言いたげだ。

 なんで、賢にはわかるのに、雅人は気付いてくれないんだろう。そんなふうに思えてしまって、虚しくなる。雅人と一緒にいるときは泣きたくないのに、賢のこの優しさに触れると、いつも泣きたくなってしまう。泣きたいわけじゃないのに、泣きたくないのに、もしかして泣きたいような気持ちになってしまう。

「ありがと」

 震えそうになる声を必死に抑えながらつぶやいた。賢はなにも言わずに残っているジュースに口をつける。

「——え?」

 初めて聞く低く、短い雅人の声。小さな声だったのに、それはとてもよく耳に届いて、わたしと賢は同時に顔を上げた。