「不器用なところがあって誤解されやすい部分もあるんだけど、素直で、我慢ばっかりするんだよね」
「へー」

 賢はあからさまに興味がなさそうだった。

 あまりにもそっけない返事をするから〝そんなの嘘だよ〟と言いたくなってしまう気持ちをぐっと堪えることができたような気がする。

 口を開くと文句を言ってしまいそうで黙って聞いていた。聞かなきゃよかった、と思っている気持ちに雅人は気付くはずもなく言葉を続ける。

「付き合ってみたらほんっとかわいいんだよー。嫉妬とかもすごいかわいくって」
「なに? お前嫉妬されてんの?」
「……美輝と一緒にいるとちょっと拗ねるんだよなあ」

 突然出てきたわたしの名前に、思わず手にしていたポテトがぽろりとテーブルに落ちた。

「美輝はそんなんじゃないって言ってるんだけど。さすがにふたりでどこか行くとかってなるとやっぱり気になるんだって」

 ちょっと顔を赤らめて、困ったように笑う。

 なんで、雅人はそんな幸せそうな顔をして話しているんだろう。

 なんなのそれ、どういうこと? 町田さんがわたしに嫉妬をしているなんて知らなかった。でも、そんなの関係ない。だって、彼女よりわたしのほうが近い。一緒にいるのは当たり前のことだ。

 でも、だからなのだろうか。

 町田さんと付き合ってから、雅人とふたりで遊ぶことはなくなった。部活とデートで週末はいつも会えなかった。出かけるときは、賢が一緒のときばかりだ。

 それは、町田さんに気を使っていたからなのだろうか。

 ふたりきりででかけたり帰ったり、そういうことがなくなったのは、町田さんのせいだったってこと?

 なにそれ。そんなの、おかしいじゃない。
 どうしてわたしよりも町田さんを優先するの。

 町田さんは雅人の彼女なのに。彼女っていう立場だけで充分じゃない。わたしのほうが雅人のことを知ってる。ずっとずっと一緒にいた。だけど、彼女は町田さんで、わたしじゃないのに。
 わたしのほうがずっと、羨ましいと思っている。嫉妬だって毎日してる。

 わたしに向けられていた笑顔を奪って、わたしたちの約束も壊して、その上、幼馴染として一緒にいる時間も奪い取るの?

 ——『美輝はそんなんじゃない』

 じゃあ、雅人にとって、わたしはなんなのだろう。

 そんなことを考えていると、涙がじわりと浮かんできてぐっと唇に歯を立てた。こんなところで、雅人の前で泣きたくない。泣きたくないのに、悔しくて涙がこぼれてしまいそうになる。