「きみちゃん、アクション映画好きじゃないから」

 そうなんだ。雅人はアクション映画が一番好きなのに。好きじゃなくても雅人が好きなんだから一緒に観てあげればいいのに。

「ふーん。お前が合わせてんの。意外だなー我儘なのに、雅人」
「なんだよー、そんなこと言うなよ。俺だってそりゃ、好きな子には多少合わせるし、っていうか我儘じゃないって。毎回お互いが選んでんだよ。前回はきみちゃんが選んだんだよ」

 自慢気な口調に、きゅっと唇を噛んだ。

 仲が良さそうなエピソードに、悔しさが滲んでくる。

 ねえ、なんで雅人はあの子と付き合っているの? そんなふうに映画を選んでいるのだって、きっと今だけで、そのうちワガママばっかり言うに決まってる。中学からいろんな人と付き合ってはすぐに別れることを繰り返してきて、雅人だってそのうちのひとりにされちゃうんだよ。

 ねえ、わたし今日あの子にすごくいやなこと言われたんだよ。

「……雅人は、町田さんの、どこが好きなの?」
「え!? なに急に! 美輝がそんなこと言い出すなんて、珍しいなあー」

 我慢できない気持ちを抑えながらゆっくりと言葉を紡ぐと、雅人は目を丸くした。そして、しばらく考えるように上を見て、頬を赤く染めていった。

 なに、その顔。そんな顔、初めて見た。

 自分で聞いたのに、もう聞きたくない、と思う。

「照れんなよ、気持ちわりいー」
「賢はほんっとうに口が悪いなあー。誰だって照れるだろー。そうだなあ、どこって言われると難しいけど……すごく、可愛かったんだよね」
「顔が、ってこと?」
「んーまあ、そうなんだけど、ギャップっていうか、テンパってる姿が」

 あの子がテンパるなんて、少し意外な気がした。

「初めて会ったときなんだけど、ひとりで廊下で盛大にコケてたんだよね、きみちゃんが。なにもないところなのに。顔面から。それで大丈夫?って声をかけたんだけど、そのときすっごい真っ赤になっててさー。すげえかわいかったんだよ」

 付き合う前に、そんなことがあったなんて、知らなかった。

 なんでわたしは知らないんだろう。雅人なら〝今日すごいかわいい女の子がコケてたんだ〟って言いそうなのに。どうして話してくれなかったんだろう。わたしが覚えていないだけ? ううん、きっと聞いてない。

 もしかして、そのときから雅人は、町田さんのことを好きになっていたのだろうか。だから、わたしになにも言ってくれなかったのかもしれない。

 告白される前から——雅人は町田さんのことを、好きだったのかもしれない。

 そんなことを考えて、よくわからないけれど、すごく不安になった。不安で、怖くて、すごく、いやだ。