なんで雅人は町田さんと付き合ったんだろう。顔だけだったとしても、今も付き合っているってことは、多少なりとも彼女の性格も、もうわかっているはずだ。どこを好きで、今も付き合っているのだろう。それとも、町田さんが巧妙に本性を隠しているのだろうか。

 本当はあんなふうに笑ったりしなくて、すごく嫌味な感じの笑みを向けてくる。それに、わたしに面と向かって無神経なことを言う。

 それを雅人が知ったら、どう思うのだろう。

 わたしの口からは絶対伝えられない。そんなことしたら、雅人は優しいから、彼女である町田さんを信じるだろう。でも、わたしのことを疑う事もできず苦しむはずだ。そうじゃなくても、わたしが人の悪口を言ったことにショックを受けるかもしれない。

 雅人の性格を考えれば、そんなことは容易く想像ができる。

 だから、わたしは、雅人の前では決して、町田さんを悪く言うこともないし、笑顔で接するようにしている。

 けれど、町田さんはわたしたちに気付いたにもかかわらず、そのまま学校を出ていった。

 挨拶くらい、すればいいのに。

 心のなかにじわりと黒い感情が広がっていく。

「愛想ねえな、お前の彼女」

 そんな気持ちを、軽い言葉で雅人に伝えたのは賢だった。

「愛想がないのは賢も同じだろ。気づかなかったんじゃないかな」
「ふーん」

 そんなわけないと思うけど、という賢の心の声が聞こえてくる。素直な賢に思わず吹き出してしまう。笑うと同時に、黒い感情が薄まっていくのがわかった。

「おまたせ、雅人!」

 改めて声をかけると、雅人は花が咲いたような明るくて優しい笑みをわたしに向けてくれた。

 雅人の前では、できるだけ笑顔でいたい。不機嫌そうな顔だったり、悲しそうな顔をすると、雅人が不安に感じる。

「あー楽しみ!」
「美輝は本当にいつも笑ってるよなあー」

 それは雅人のほうだよ、と思いながら「そうかなー」と笑顔を絶やさないようにする。

 薄くなったとはいえ、まだちょっともやもやした気持ちが残っている。それを絶対悟られてはいけない。せっかく雅人と過ごす時間なのだから、微妙な空気になるのだけは避けたい。そう思うと、いつも以上に笑顔でいるようにしなくちゃいけない。

 わたしが笑えば雅人は笑ってくれる。

「ぶっさいくな笑顔」
「……なんで賢はそういうことばっかり言うの」

 隣から聞こえてきた声に、むっとした顔を向ける。賢は呆れたように肩をすくめてから「別にー」と言ってすたすたと速度をあげて歩き始めた。

 ……こういう、察しのいいところが、賢の苦手なところだ。

 雅人には全くバレていないのに。頬を両手で揉むように動かしながら、雅人と賢を追いかけた。